「ABEMAって、ずっと赤字なの?」——そんな疑問を持つ人は少なくない。無料でサッカーワールドカップを全試合配信し、人気ドラマやニュースを惜しみなく流し続けるABEMAは、一体どうやって経営が成り立っているのか。数字を追えば追うほど、その規模の大きさと、その裏にある戦略の異様さが見えてくる。
① 累積損失は本当に1,300億円超か?
答えはYES、しかもそれを上回る。
2024年9月期の決算データによれば、ABEMA運営会社であるAbemaTVの累積損失は1,356億2,600万円。債務超過額も1,352億9,900万円と、ほぼ同規模に達している。これはABEMAが2016年4月にサービスを開始してからの約10年間で積み上がった数字だ。
1,356億円という金額の大きさをイメージしてほしい。日本の中規模地方都市の1年分の予算にも匹敵する。インターネットサービスとして、これほど巨額の累積損失を抱えたまま事業を継続するケースは国内では異例中の異例だ。
ただし、この数字には重要な注釈がある。運営会社・AbemaTV単体の累積損失と、親会社・サイバーエージェントのメディア事業セグメント全体の損失は別物だ。後者にはギャンブル投票サービス「WINTICKET(ウィンチケット)」なども含まれており、報道によってはこれらが混同されることもある。いずれにせよ、1,300億円超という数字の大枠は事実として揺るがない。
② なぜこんなに損失が膨らんだのか?
年200億円の「計画的赤字」だった
ABEMA開局からしばらく、藤田晋社長は「毎年200億円の赤字が続いているが、必要な先行投資」と公言していた。実際の数字を見ると、その言葉は誇張でもなんでもなかった。
- 2016年9月期:約99億円の赤字(サービス開始年)
- 2017年〜2019年:毎年200億円前後の赤字が継続
- 2019年9月期:203億円の赤字(ピーク水準)
- 2020年9月期:163億円の赤字
- 2021年9月期:140億円の赤字
- 2022年9月期:113億円の赤字
- 2023年9月期:123億円の赤字
開局から2020年までの5年弱だけで、すでに累計損失は700億円を突破していた。
なぜそこまで出血し続けたのか
原因は構造的だ。ABEMAは「無料で観られる」ことを最大の武器にしているため、広告収入が安定するまでは収益化が難しい。コンテンツを作れば作るほど原価がかさみ、2022年9月期のデータでは売上原価率が104.5%——売上よりもコストの方が高いという逆ざや状態が続いていた。
さらに、2022年のFIFAワールドカップカタール大会の全試合無料配信は、ブランド力向上という意味では絶大な効果をもたらしたが、放映権料や配信コストで1四半期の赤字が93億円を超える事態を招いた。「視聴者を増やすための投資」と「収益化」の間には、構造的なジレンマが常に存在していたのだ。
加えて、競合環境も厳しかった。NetflixやAmazon Prime Videoといったグローバルプレイヤーは、コンテンツ制作に年間数千億〜数兆円を投じている。日本市場限定のABEMAが、彼らとユーザーの時間を奪い合うには、相応の出血を覚悟するしかなかった。
③ しかし”赤字地獄”は終わりつつある
2024年、ついて四半期黒字を達成
損失の縮小傾向は2022年ごろから始まっていたが、2024年が大きな転換点となった。
2024年9月期第2四半期(2024年4月〜6月)において、ABEMAを含むメディア事業がABEMAへの投資開始以来初の四半期黒字(1.6億円の営業黒字)を達成。サービス開始から実に8年越しの快挙だった。
その後も四半期ベースでの黒字は続き、2024年9月期通期のメディア事業の営業損失は19億円まで縮小(前年の115億円から大幅改善)。さらに2024年10〜12月期には、メディア事業が14億円の営業黒字を記録している。
黒字化を支えた3つの要因
要因1:ワールドカップ効果の定着 2022年のワールドカップを機にWAU(週間アクティブユーザー)が急増し、3,409万人というピークを記録。その後も高水準を維持し、2024年時点でも2,000万人前後のユーザーが週次で利用している。リーチが広がれば広告単価も上がる。
要因2:AIを活用したコスト削減 ABEMAは番組制作やコンテンツ推薦にAIを積極的に活用している。テレビ局がうらやむと言われるほどのAI開発力が、コスト効率の改善を下支えしている。
要因3:収益構造の多様化 広告収入、有料会員(ABEMAプレミアム:月額960円)、広告付きプレミアム(月額580円)、PPV(都度課金)、そしてWINTICKETによる競輪・オートレースの投票サービスという多層的な収益構造が整ってきた。2024年度のプレミアム会員数は約150万人に達している。
④ なぜまだ「赤字地獄」と言われるのか?
単体黒字化はまだ先
ここに重要な落とし穴がある。メディア事業セグメント全体が黒字化しても、ABEMA単体での黒字化はまだ達成されていない(2025年初頭時点)。サイバーエージェントの藤田社長自身が「アベマは単体黒字はまだだが順調に赤字を減らしてきている」と2025年1月の決算説明会で明言している。
なお、2026年2月6日にAbemaTV単体で第1四半期の黒字化を初めて達成したという情報もあり、収益化は着実に進んでいる。
累積損失1,356億円の「壁」
黒字化を達成しても、過去に積み上がった累積損失はすぐには消えない。テレビ朝日ホールディングスは2024年11月の決算説明会で、「ABEMAが黒字化してもすぐにその利益を取り込めるわけではなく、累積損失が解消されてから持分法投資利益として認識できる」と説明している。これだけでも、財務上の「赤字地獄」が続いているように見える理由の一つだ。
「赤字地獄」という言葉が生み出すバイアス
さらに言えば、「赤字地獄」という言葉には一種のバイアスが含まれている。Amazonが初期に長年赤字を続けた事実を思い出してほしい。Netflixも黒字化まで長い時間がかかった。ABEMAの赤字の多くは「損失」ではなく「先行投資」——未来の市場を確保するためのコストとして設計されたものだ。実際、AbemaTVの決算資料でも累積損失は「競合が同規模のサービスを構築しようとしたときに必要となるコスト」、つまり参入障壁の証明として位置づけられている。
⑤ 現状まとめ:過去 vs 現在
| 指標 | 黎明期(〜2020年) | 現在(2024年〜) |
|---|---|---|
| 年間営業損失 | 約200億円 | 数億〜十数億円(縮小中) |
| 累積損失 | 約700億円(2020年) | 約1,356億円(2024年9月期) |
| WAU(週間ユーザー) | 500〜1,500万人 | 2,000〜3,000万人 |
| プレミアム会員数 | 〜100万人(目標) | 約150万人(達成済み) |
| 収益構造 | 広告中心(不安定) | 広告・会員・WINTICKET(多角化) |
| 四半期黒字化 | 未達成 | 2024年Q2に初達成 |
「赤字地獄」は正確な表現か
累積損失1,356億円という数字だけを見れば、確かに「赤字地獄」という表現に一定の正確さはある。しかし、その文脈を無視して語ることには問題がある。
ABEMAは放漫経営による損失を垂れ流しているのではなく、「10年後の日本のメディア市場を支配する」という明確な目標のもと、計画的に先行投資を続けてきた。その戦略が今まさに収穫期を迎えつつある。メディア事業の四半期黒字化は達成し、ABEMA単体でも黒字化への道筋が現実的になっている。
問うべきは「なぜこんなに赤字なのか」ではなく、「この1,356億円の投資は回収できるのか」だ。そしてその答えは、週に2,000万人以上が利用するプラットフォームの存在感が、着実に「イエス」に近づいていることを示している。




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