1975年の「秘密戦隊ゴレンジャー」から半世紀にわたり、日本の子どもたちに夢と勇気を届けてきた「スーパー戦隊シリーズ」。2026年2月、現在放送中の「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」を最後に、その歴史に一旦区切りをつけることが正式に発表されました。
テレビ朝日と東映は、後継枠として新たな特撮ヒーローシリーズ「PROJECT R.E.D.」を始動。第1弾として「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」の放送を予定しています。ただし、東映のプロデューサー陣は「終了」ではなく「休止」であると強調し、将来的な復活の可能性を示唆しています。
では、なぜこのタイミングで休止という決断に至ったのでしょうか。その背景にある5つの理由を詳しく解説します。
1. 深刻化する玩具売上の低迷
スーパー戦隊シリーズ休止の最も大きな理由として挙げられるのが、玩具売上の深刻な低迷です。
バンダイナムコグループの資料によると、近年の戦隊シリーズ玩具の売上は約65億円。これに対し、同じ東映制作の「仮面ライダー」シリーズは約300億円、「ウルトラマン」シリーズは約140〜200億円と、明らかな格差が生じています。
この「一人負け」状態には歴史的な背景があります。1993年にアメリカでリメイクされた「パワーレンジャーズ」は世界的ヒットとなり、2017年時点では全世界で210億円の売上を記録していました。しかし、2018年に玩具製造権がアメリカの玩具メーカー・ハズブロに移行。貴重な海外市場での収益源を失ったことが、現在の苦境につながっています。
さらに、スーパー戦隊は複数のロボット玩具を展開する戦略をとってきましたが、これが大人のコレクター層には「買いにくい」と受け取られ、仮面ライダーやウルトラマンのようなコレクター需要を取り込めなかったことも要因の一つです。
2. 少子化とメディア環境の激変
視聴者である子どもの絶対数が減少していることも、シリーズ継続を困難にしている大きな要因です。
現在放送中の「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」の視聴率は1.9%(2025年10月26日放送回・関東地区)と非常に厳しい状況。しかし、これは戦隊シリーズだけの問題ではありません。
子どもたちの娯楽の選択肢は格段に増えています。無料で遊べるスマホゲーム、YouTube、動画配信サービスなど、競合するコンテンツが昭和・平成時代と比べて圧倒的に多様化しました。「テレビをリアルタイムで見る」という習慣そのものが失われつつある中、従来型の視聴率指標では番組の真の人気を測ることが難しくなっています。
録画や配信で視聴する層の存在が正しく評価されにくい現状も、スポンサーや制作判断に影響を与えていると考えられます。
3. マンネリ化と「型」からの脱却の限界
東映のプロデューサー・白倉伸一郎氏は朝日新聞のインタビューで「マンネリ化で戦隊の限界が見えてきた」と率直に語っています。
スーパー戦隊シリーズには確立された「型」があります。「色とりどりの基本5人のチームが最後にロボで怪人を倒す」というフォーマットは、シリーズの強みであると同時に、変革の足かせにもなってきました。
近年の作品では様々な挑戦が行われました。「機界戦隊ゼンカイジャー」や「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」は従来の枠を超えた斬新な試みを展開しましたが、世間一般には「いつもの戦隊」としか映らなかったという厳しい現実があります。
白倉氏は「仮に復活させる場合は10年くらいは間を置いた方がいい」とも述べており、根本的なリブランディングの必要性を示唆しています。シリーズを一旦休止させることで、固定化されたパブリックイメージから脱却し、新しい形での復活を目指す戦略と言えるでしょう。
4. 制作費の高騰と現場の疲弊
スーパー戦隊シリーズは、仮面ライダーシリーズと比較して制作費がかさむことが業界では知られています。
多人数編成のキャスト、複数の巨大ロボット戦、派手なアクションシーンなど、戦隊特有の要素は高いクオリティを維持するために多大なコストと労力を必要とします。一方で、イベントや関連グッズ、映画化などで得られる収入が制作費に見合わないという構造的な問題が報道されています。
加えて、コンプライアンス順守が厳しく求められる現代において、かつての過酷な撮影スケジュールを続けることは困難になっています。業界では2010年代後半から制作現場の負担が問題視されており、持続可能な制作体制の構築が課題となっていました。
実際、2025年11月には出演者の未成年飲酒問題が発覚し、東映社長が報酬を自主返納する事態にも発展。「番組ならびにスーパー戦隊シリーズのブランドイメージを損なった」として、コンプライアンス順守の徹底が改めて強調されました。
5. 新時代へのチャレンジ「PROJECT R.E.D.」
スーパー戦隊の休止は、単なる終焉ではなく、新たな特撮ヒーロー像を模索するための戦略的判断でもあります。
2026年2月から始まる「PROJECT R.E.D.」は、「色とりどりの5人チーム」という制約から解放された、より自由度の高い特撮シリーズです。第1弾「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」のプロデューサーを務める久慈麗人氏は、過去に「爆上戦隊ブンブンジャー」「王様戦隊キングオージャー」を手がけた実績を持つベテラン。
東映は「次はどんな戦隊でどんなモチーフか」という固定観念ではなく、「次はどんな特撮番組で何が繰り広げられるのか」という期待値へと、視聴者の関心をシフトさせたい考えです。
白倉氏は「枠そのものの訴求力を高めたい」と語っており、スーパー戦隊という看板に頼らない、真に革新的なヒーローコンテンツの創出を目指しています。
ファンの反応と復活への期待
休止の発表に対し、SNSでは「悲しい」「子どもと一緒に観てたのに」といった声があふれました。過去作品の出演者である梶裕貴さんも「さびしいよ、スーパー戦隊シリーズ」とツイートするなど、幅広い世代から惜しむ声が上がっています。
しかし、東映・塚田英明氏は野間出版文化賞特別賞の受賞式で「戦隊シリーズは終了ではなく、ひとまずお休みしているだけ」「はっきりとお約束はできませんが、スーパー戦隊は復活します」と明言。将来的な再開への希望を示しました。
実際、「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」の松浦大悟プロデューサーや脚本の井上亜樹子氏は、放送途中まで休止について知らされていなかったといいます。数年前から決まっていた決断であり、綿密な計画のもとでの休止であることがうかがえます。
まとめ:10年後の復活に向けて
スーパー戦隊シリーズの休止は、玩具売上の低迷、少子化とメディア環境の変化、マンネリ化の限界、制作費の問題、そして新時代への挑戦という複合的な理由によるものです。
50年という長い歴史の中で、スーパー戦隊は常に子どもたちのヒーローであり続けました。しかし、時代が変わり、求められるエンターテインメントの形も変化しています。
白倉氏が語る「10年の休止期間」は、単なる空白ではなく、次世代のスーパー戦隊を生み出すための準備期間となるでしょう。その間に「PROJECT R.E.D.」が新しい特撮文化を築き、いつの日か、かつてない形で戦隊ヒーローが復活する——そんな未来を期待したいところです。
「全スーパー戦隊が、懸命に生きた。その積み重ねの50年。」ゴジュウジャーに込められたこのメッセージは、単なる終わりではなく、新たな始まりへの宣言なのかもしれません。


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