2025年、粉もん業界に激震──倒産件数33%増の衝撃
2025年、日本の食文化を支えてきた「粉もん」業界に異変が起きている。お好み焼きやたこ焼きなど粉もの専門店の倒産件数が前年比33%増の28件に達し、調査開始以来の過去最多を記録した。庶民の味方として親しまれてきた粉もん店が、なぜ今、経営危機に陥っているのか。
この数字は単なる統計ではない。地域に根ざし、家族連れや学生たちの憩いの場として愛されてきた店舗が、次々と姿を消している現実を物語っている。
値上げの壁──「安くて美味しい」イメージが足かせに
粉もん店が直面する最大の課題は、値上げへの心理的ハードルだ。
お好み焼き一枚600円、たこ焼き8個入り500円──。こうした「手頃な価格」こそが、粉もん文化の本質といえる。客層も学生や家族連れが中心で、価格に敏感な消費者が多い。
ある大阪の老舗お好み焼き店の店主は語る。「50円値上げしただけで、常連さんの来店頻度が目に見えて減った。結局、元の価格に戻さざるを得なかった」
この「値上げできない呪縛」が、粉もん店の経営を圧迫している。ラーメン店や焼肉店なら1,000円を超える価格設定も受け入れられるが、粉もん店には「庶民的」「リーズナブル」というブランドイメージが強く根付いているのだ。
物価高の三重苦──原材料・光熱費・人件費のトリプルパンチ
値上げできない一方で、コストは容赦なく上昇している。
小麦粉価格の高騰は粉もん店に直撃した。主原料である小麦粉は2021年から段階的に値上がりし、2024年には一部で40%以上の上昇を記録。キャベツや卵、ソースといった副材料も軒並み高騰している。
さらに追い打ちをかけるのが光熱費の上昇だ。お好み焼きやたこ焼きは鉄板やガスを長時間使用する業態。エネルギー価格の高騰は、電気代・ガス代として経営を直撃する。ある店舗では光熱費が前年比で1.5倍に跳ね上がったという。
人件費の上昇も無視できない。最低賃金の引き上げは必要な施策だが、薄利多売の粉もん店にとっては重荷となる。人手不足も深刻で、時給を上げなければスタッフが集まらない状況だ。
競争激化とコロナ後遺症──変わる外食トレンド
物価高だけが倒産理由ではない。
コロナ禍を経て、外食市場そのものが変容した。テイクアウトやデリバリーが定着し、家庭での「冷凍たこ焼き」や「お好み焼きミックス」の需要が拡大。わざわざ店舗に足を運ぶ必要性が薄れている。
さらに、飲食店の多様化も逆風だ。韓国料理、エスニック料理、高級ハンバーガーなど、若者を惹きつける新業態が続々登場。限られた外食予算の奪い合いが激化し、粉もん店は選択肢の一つに埋もれつつある。
SNS映えを重視する若年層にとって、昔ながらの粉もん店は「おしゃれ」とは言い難い。集客のためにはマーケティング戦略の見直しも必要だが、個人経営の小規模店舗にはその余裕がない。
生き残る店舗の戦略──差別化と付加価値創出
では、厳しい環境下でも生き残っている店舗は何が違うのか。
成功事例に共通するのは明確な差別化戦略だ。高級食材を使った「プレミアム粉もん」、地元野菜にこだわった「産地直送お好み焼き」、健康志向の「グルテンフリーたこ焼き」など、付加価値を打ち出している。
価格帯も思い切って引き上げ、一枚1,200〜1,500円の「体験型お好み焼き」として再定義。店舗の内装やサービスもアップグレードし、「安い」から「価値がある」へとポジショニングを転換した。
デジタル活用も鍵だ。InstagramやTikTokで店舗の魅力を発信し、若年層を取り込む。予約システムやキャッシュレス決済の導入で利便性を高め、リピーター獲得につなげている。
業界全体で考えるべき課題──文化継承と経営の両立
粉もん店の倒産増加は、単なる経済問題ではなく食文化の危機でもある。
お好み焼きやたこ焼きは、大阪を中心とした関西文化の象徴であり、地域コミュニティの結節点でもあった。これらの店が消えることは、地域の記憶や人々の繋がりが失われることを意味する。
行政や業界団体には、小規模事業者への支援策が求められる。原材料費の高騰に対する補助金、経営コンサルティングの提供、後継者育成プログラムなど、文化を守るための具体的施策が必要だ。
消費者側も、「安さ」だけを求めるのではなく、適正価格を受け入れる意識変革が求められる。好きな店を守るためには、値上げへの理解と支持が不可欠だろう。
粉もん店再生への道筋
粉もん店の倒産件数過去最多という事実は、飲食業界全体が抱える構造的課題を浮き彫りにしている。値上げできない価格硬直性、物価高による収益圧迫、変化する消費者ニーズ──これらの問題に正面から向き合わなければ、廃業の波は止まらない。
しかし、希望もある。差別化戦略、デジタル活用、価値提案の再構築によって、新たな粉もん文化を創造している店舗も確実に存在する。伝統を守りながら革新する──その挑戦こそが、粉もん店の未来を切り開く鍵となるだろう。
あなたの街の粉もん店は、今日も鉄板の上で生地を焼いている。その灯を消さないために、私たち一人ひとりができることを考える時が来ている。


コメント