なぜ介護福祉士を目指す若者が減っているのか
全国各地で介護福祉士養成学校の募集停止が相次いでいます。超高齢社会を迎えた日本において、介護人材は最も必要とされているはずなのに、なぜ若者たちは介護の道を選ばなくなったのでしょうか。
この記事では、養成学校の現状と若者が介護職を敬遠する背景について、データと現場の声をもとに深掘りしていきます。
養成学校の定員割れが深刻化している現実
介護福祉士養成施設の入学者数は、ピーク時の2007年度には約1万8千人を記録していました。しかし、近年では定員の4割程度しか埋まらない状況が続いています。その結果、多くの養成学校が経営困難に陥り、募集停止や閉校を余儀なくされているのです。
地方都市では特に深刻で、一部の養成学校では入学者がわずか数名というケースも珍しくありません。教育の質を保つためには一定数の学生が必要ですが、それすら確保できない状況に追い込まれています。
若者が介護職を選ばない5つの理由
1. 給与水準の低さと将来への不安
最も大きな理由は、やはり給与の問題です。介護職の平均給与は全産業平均と比較して月額5万円から8万円程度低いとされています。奨学金返済を抱える若者にとって、この給与水準では生活設計が立てにくいのが現実です。
結婚や子育て、住宅購入といったライフイベントを考えたとき、経済的な不安が付きまといます。「介護の仕事は好きだけど、この給料では将来が見えない」という声は、現場を離れる若手職員から頻繁に聞かれます。
2. 身体的・精神的負担への懸念
介護の仕事は体力勝負という側面があります。入浴介助や移乗介助など、腰や膝に負担がかかる作業が日常的に発生します。若いうちは耐えられても、40代、50代になったときに体が持つのかという不安を抱く人が多いのです。
また、認知症ケアにおける心理的ストレスや、利用者やその家族との関係性の難しさも、若者を躊躇させる要因となっています。感情労働としての側面が強く、心身ともに消耗するイメージが先行しているのです。
3. 社会的評価の低さとイメージの問題
「3K職場」というレッテルは、今なお介護業界に付きまといます。きつい、汚い、危険というイメージは、メディアでの報道や周囲の大人の言葉を通じて、若者の心に刷り込まれています。
親世代が「もっと他に良い仕事があるのでは」と進路変更を促すケースも少なくありません。社会全体として介護職を価値ある専門職として認識していない現状が、若者の選択に影響を与えているのです。
4. キャリアパスの不透明さ
介護業界には明確なキャリアアップの道筋が見えにくいという問題があります。介護福祉士を取得した後、どのようなステップで成長し、どんなポジションに就けるのか、具体的なビジョンを描きにくいのです。
管理職への道は限られており、給与の大幅な上昇も期待しにくい。スキルを磨いても報われにくい構造が、向上心のある若者を他業界へと向かわせています。
5. 他業種との競合激化
人手不足は介護業界だけの問題ではありません。IT、サービス業、製造業など、あらゆる業界が若手人材の獲得に必死です。その中で、待遇面や労働環境で劣る介護業界は、どうしても選択肢から外れやすくなります。
特にコロナ禍以降、リモートワークが可能な職種への関心が高まっており、対面が必須の介護職は相対的に魅力が低下しているという側面もあります。
養成ルートの変化も影響している
実は、介護福祉士になる道は養成学校だけではありません。実務経験3年と実務者研修を経て国家試験を受験するルートもあり、近年ではこちらを選ぶ人が増えています。
働きながら資格取得を目指せるこのルートは、経済的負担が少なく、実践的なスキルも身につけられるため、特に社会人や主婦層に人気です。養成学校への入学者減少の一因には、こうしたルートの多様化もあると考えられます。
介護業界が取り組むべき改革
この状況を打開するためには、業界全体での構造改革が不可欠です。
処遇改善は最優先課題ですが、給与を上げるだけでは不十分です。介護職のプロフェッショナルとしての価値を社会に示し、専門性を正当に評価する仕組みづくりが必要です。
テクノロジーの活用による業務負担の軽減、明確なキャリアラダーの構築、多様な働き方の提供など、若者が「この業界で長く働きたい」と思えるビジョンを示すことが求められています。
介護の未来を担う人材確保に向けて
介護福祉士養成学校の募集停止増加は、単なる一時的な現象ではなく、業界が抱える構造的問題の表れです。若者の介護職離れは、待遇、イメージ、キャリア展望など、複合的な要因によって引き起こされています。
超高齢社会において介護人材は社会の基盤を支える重要な存在です。その価値が正しく認識され、働く人が誇りと希望を持てる業界へと変革していくことが、今、最も求められています。
この問題に向き合い、一つひとつ改善を積み重ねていくことが、持続可能な介護の未来を築く第一歩となるでしょう。


コメント