なぜ日本人は「1999年人類滅亡説」を信じたのか
「1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってくる」——この一節を聞いて、背筋がゾクッとした記憶がある方も多いのではないでしょうか。1990年代の日本では、16世紀フランスの予言者ノストラダムスが残した予言が、驚くべき社会現象を巻き起こしました。
当時の日本人の多くが、本気で1999年に世界が終わると信じていたのです。なぜこれほどまでに多くの人々が、数百年前の予言に心を奪われたのでしょうか。
五島勉の著書が火をつけた「終末ブーム」
ノストラダムスの大予言が日本で爆発的に広まったきっかけは、1973年に出版された五島勉氏の『ノストラダムスの大予言』でした。この本はベストセラーとなり、シリーズ累計で数百万部を売り上げる大ヒット作品となりました。
五島氏は難解なノストラダムスの詩を独自に解釈し、1999年に人類滅亡の危機が訪れると警鐘を鳴らしました。特に「恐怖の大王」の正体について、核戦争や巨大隕石の衝突など、さまざまな解釈が提示され、読者の想像力をかき立てました。
テレビ特番が拍車をかけた恐怖の連鎖
1990年代に入ると、ノストラダムスの大予言はテレビの特別番組で頻繁に取り上げられるようになりました。ゴールデンタイムに放送される特番では、CGを駆使した衝撃的な映像と共に、「1999年7月に人類滅亡」というセンセーショナルなメッセージが繰り返し流されました。
当時の子どもたちの間では、「本当に世界が終わるのか」という不安が広がり、学校でもノストラダムスの話題で持ちきりになりました。中には、1999年までに自分の夢を叶えようと考える子どもや、逆に将来の計画を立てることをあきらめてしまう子どももいたと言われています。
信じた人々の具体的なエピソード
家を建てない人々
1990年代後半、住宅ローンを組むことをためらう人々が実際に存在しました。「どうせ1999年に世界が終わるなら、35年ローンを組む意味がない」という理由で、マイホームの購入を先延ばしにしたのです。不動産業界では、この現象が実際に営業に影響を与えたという証言もあります。
貯金をやめて浪費する若者たち
「どうせ滅亡するなら今を楽しもう」と考え、貯金をせずに旅行や趣味に惜しみなくお金を使う若者が増えました。終末思想が消費行動にまで影響を及ぼしたのです。
学校での混乱
小学校や中学校では、ノストラダムスの予言を怖がる子どもたちへの対応に教師が追われました。中には不安で夜眠れなくなったり、将来への希望を失ったりする子どももいました。保護者からの相談も相次ぎ、学校側は冷静に科学的な説明をする必要に迫られました。
オカルト雑誌の黄金時代
『ムー』などのオカルト雑誌は飛ぶように売れ、書店では特設コーナーが設けられました。予言関連の書籍は次々と出版され、出版業界は特需に沸きました。
なぜこれほど信じられたのか?冷戦終結と世紀末不安
ノストラダムスの大予言がこれほど受け入れられた背景には、時代の空気がありました。1990年代は冷戦が終結したものの、湾岸戦争や阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件など、不安をかき立てる出来事が相次ぎました。
「世紀末」という言葉が持つ終末的なイメージと、実際の社会不安が重なり合い、予言への信憑性を高めたのです。また、インターネットが普及する前の時代で、情報の真偽を確かめる手段が限られていたことも、予言が広まった一因でした。
1999年7月が過ぎて—予言が外れた後
そして1999年7月は何事もなく過ぎ去りました。恐怖の大王は降ってこず、人類は滅亡しませんでした。予言を信じていた人々の多くは、ほっとした反面、複雑な心境を抱いたと言います。
予言が外れたことで、オカルトブームは急速に下火になりました。しかし、この社会現象は「人は不安な時代に予言や終末論に惹かれる」という人間心理の本質を浮き彫りにしました。
現代に残る教訓
ノストラダムスの大予言ブームから四半世紀以上が経過した今、私たちは何を学べるでしょうか。
情報化社会の現代でも、フェイクニュースや陰謀論が簡単に拡散します。1990年代に多くの人がノストラダムスの予言を信じたように、現代でも科学的根拠のない情報を鵜呑みにしてしまう危険性は常に存在します。
大切なのは、情報を批判的に見る目を養い、複数の情報源から事実を確認する習慣です。ノストラダムスの大予言ブームは、メディアリテラシーの重要性を私たちに教えてくれる貴重な歴史的教訓なのです。


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