北海道弁が生んだカリスマファイター
「やるべしたら!」──この印象的な北海道弁が、ブレイキングダウンで注目を集めている
本名:佐藤竜。その愛称「やるべしたら竜」は、大阪の強面ファイター・ダイスケとの舌戦で生まれた。「ダルメシアンみたいな喋り方すんなや!」と困惑するダイスケとのやりとりは85万回再生を記録した。
しかし、やるべしたら竜の真価はリング上の強さだけにあるのではない。彼の人生そのものが、壮絶な過去を乗り越え、同じ境遇の子どもたちを救いたいという強い信念に支えられている。
虐待と貧困に苦しんだ幼少期
佐藤竜は4兄弟の末っ子として北海道に生まれた。だが、その家庭環境は想像を絶するものだった。母親は飲み会に出かけたまま帰らず、食べ物もない日々が続いた。空腹に苦しむ竜を救ったのは、2歳上の兄がスーパーから持ち帰った弁当だった。
父親からの暴力も日常的だった。警察官の前でも容赦なく殴られ、腹や顔面に拳が飛んだ。しかし竜は「うずくまるのが嫌だった」と、幼いころから筋トレを始める。「親父に負けないために鍛えていた」──その言葉には、幼い心に刻まれた生存本能が滲む。
さらに衝撃的な事実がある。竜の兄たちは既にこの世にいない。金庫を漁る事件を起こした兄たちは、警察に追われるカーチェイスの末、車が炎上して命を落とした。全国ニュースにもなったこの悲劇は、竜の心に深い傷を残した。
施設と留置所で過ごした孤独な日々
両親からの虐待により、竜はほぼ施設で暮らすことになる。だがそこでも孤独は続いた。「挨拶代わりに暴れていた」という竜は、自分の居場所を作るために年上や体格の大きい相手と常に戦った。
「喧嘩が強くなればみんなついてくると思っていた」──しかし現実は違った。強さは人を引き寄せるのではなく、恐れられるだけだった。「すごい孤独でした」と当時を振り返る竜の言葉には、誰にも理解されなかった痛みが込められている。
中学時代はさらに荒れた。ほとんど留置所にいる状態で、ビール瓶を持った大人3人と喧嘩するなど、少年院に入らなかったのが奇跡と言われるほどの問題行動を繰り返した。小学校も中学校もまともに通えず、教育委員会から追い出されたという。
平野歩夢の銀メダルがもたらした人生の転機
15歳のとき、竜の人生を変える出来事が起こる。手錠をかけられた状態でテレビを見ていた竜は、同年代の平野歩夢がオリンピックで銀メダルを獲得する瞬間を目撃した。
銀メダリストと、手錠をかけられた自分──この差は何なのか。「環境がちょっと違うだけでオリンピックに出れたかもしれない」と気づいた竜は、深い衝撃を受ける。この瞬間、「更生しないと俺この先何もない」という決意が生まれた。
亡くなった兄たちについても、「決まった目標がなかった、本当にもったいなかった」と惜しむ。そして「コツコツコツコツが本当に成功の近道」という信念を持つようになった。朝倉未来の存在にも感銘を受け、「本当に強くて格闘技でやっていく人いるんだな」と可能性に気づいた。
亡き兄の意志を継いだ会社経営
更生を決意した竜は、道外で就職するが、3男の兄から「内装業・土木業を営むから北海道に帰ってきて欲しい」と呼ばれ、印刷会社を辞めて帰郷する。兄と現場で切磋琢磨し、事業が軌道に乗り始めた矢先、兄は交通事故で命を落とす。
「亡くなった兄と一緒に創り上げた会社をなくしてしまうのは弟としてすごく嫌」──竜は兄の意思を継ぎ、業種を変えてFUJI工業株式会社を創設した。現在は北海道札幌市で空調設備工事を手掛ける会社を経営しながら、格闘技の道を歩んでいる。
ブレイキングダウンでの活躍と挫折
竜のブレイキングダウンでの実力は確かなものだ。
北海道喧嘩自慢選考会では、のすけを左パンチで瞬殺。「彼はね本当に狂暴なんだよ」と監督のSATORUが評するほどの破壊力を見せた。
沖縄代表との対抗戦では健斗に判定勝利し、北海道チームを勝利に導いた。一歩も引かない姿勢と圧倒的なパンチ力で、着実にその名を広めていった。
しかし、ブレイキングダウン16では前日計量で体重オーバーという失態を犯す。観客からの激しいブーイングを受けた竜は、神妙な面持ちで謝罪した。対戦相手のsakkkiは「俺に謝るな、ファンにだけ謝っとけ、俺とテメエの喧嘩なんだよ!」と男気を見せた。
試合は延長にもつれ込む激戦となったが、判定1-4でsakkkiの勝利。竜にとって反省と学びの多い敗北となった。だが、その後のブレイキングダウン17.5では、富永啓悟を開始15秒で右フックのカウンターでKO勝利し、見事に復活を遂げた。
「自分と同じ環境の子どもたちを救いたい」
竜が語る最も重要な目標──それは「自分と同じような境遇の子どもたちを救いたい」という信念。「有名になって影響力を持ったその先に自分らの後輩たちもいる」と語る竜は、格闘技での成功をゴールとは考えていない。
虐待、貧困、施設、留置所──壮絶な過去を経験した竜だからこそ、同じ環境で苦しむ子どもたちの痛みが分かる。孤独の中で誰にも理解されなかった少年時代の記憶が、今の竜を突き動かしている。
竜には2人の子どもがいる。自身のSNSで「仕事やトレーニングで家にほとんどいない事が子供達には寂しい想いをさせてたみたい」と投稿し、家族との時間も大切にする父親の顔を見せる。過去の自分と同じような寂しさを、自分の子どもたちには味わわせたくない──その思いが伝わってくる。
失敗から学び、コツコツ積み上げる
体重超過という失敗を経験した竜は、試合後にSNSで「減量失敗して、判定負けもしてこんな失敗することは初めてでした」と率直に語った。「ブレイキングダウンを通して色々な経験ができて、改めて勝負事は準備が大切だと思いました」という言葉には、失敗を次に活かす姿勢が表れている。
15歳のときに気づいた「コツコツコツコツが本当に成功の近道」という信念を、竜は今も実践し続けている。会社経営と格闘技の両立、そして将来的な社会貢献活動──すべてはコツコツと積み上げていくものだ。
リングの先にある真の目的
「やるべしたら竜」佐藤竜は、壮絶な幼少期を乗り越え、留置所での日々から更生し、亡き兄の意志を継いで会社を経営する実業家でもある。
だが何よりも、自分と同じ境遇の子どもたちを救いたいという強い信念を持つ社会貢献者だ。リング上での勝利は、その信念を実現するための手段にすぎない。影響力を持ち、同じ環境で苦しむ子どもたちに希望を与える──それが竜の真の目的だ。


コメント