「技術の日産」が陥った深刻な経営難
日産自動車が再び経営危機に直面している。2025年11月、同社が発表した9月中間決算は衝撃的な内容だった。売上高: 前年同期比6.8%減の5兆5,787億円。営業損益: 277億円の赤字。最終(当期純)損益: 2,219億円の赤字。
さらに創業の地である横浜の本社ビルを970億円で売却することを発表。経営危機の深刻さが改めて浮き彫りになった。
販売不振の根本原因:米中市場での苦戦
北米市場での競争力低下
日産の業績悪化の最大の要因は、稼ぎ頭である北米市場での深刻な販売不振だ。2024年度上半期において、北米での営業利益は前年の2414億円からマイナス41億円へと急転落し、大幅な赤字を計上した。
この背景には、市場のニーズに応えられない商品ラインナップがある。米国市場では電気自動車からハイブリッド車への需要シフトが加速していたが、日産にはハイブリッド車のラインナップが不足していた。内田誠社長自身も「現在こうしたラインアップを持っていない当社は苦戦を強いられている」と認めている。
さらに深刻なのは、新車投入の遅れだ。過去3年間、ホンダが主力車種のほとんどをフルモデルチェンジしたのに対し、日産の人気SUV「ローグ」や「セントラ」の全面刷新は4年以上前にさかのぼる。車種の高齢化により、消費者から見た魅力が低下し、販売奨励金を積み増しても在庫がさばけない悪循環に陥っていた。
中国市場でのシェア喪失
世界最大の自動車市場である中国でも、日産は苦境に立たされている。急速に電気自動車へシフトする中国市場で、地元メーカーが革新的な技術と価格競争力で存在感を高める中、日産は魅力的なEVモデルを提供できず、シェアを失いつつある。
経営判断の誤算と戦略の失敗
コロナ禍での「サボり」が致命傷に
自動車アナリストの指摘によれば、コロナ禍での対応の差が現在の明暗を分けた。半導体不足で供給量が減り、どの会社も高く売ることができた時期、トヨタやスバルは新車投入やモデルチェンジで顧客が求める車を追求していた。しかし日産は消極的だった。その結果、競争力のある車を生み出せず、現在は在庫が余り、安売りを強いられる状況に陥っている。
わずか8カ月で撤回された成長計画
2024年3月、日産は世界販売を年100万台増やすという野心的な中期経営計画「The Arc」を発表した。しかし、わずか半年後の11月には、この計画を事実上撤回。販売拡大どころか、生産能力の削減を余儀なくされた。この朝令暮改ぶりは、経営陣の状況認識の甘さを露呈するものとなった。
大規模リストラの実態:2万人削減へ
当初9000人の削減を発表していた日産だが、2025年5月には新たな経営再建計画「Re:Nissan」を発表し、削減規模を2万人(全従業員の約15%)に拡大した。これは2019年のゴーン氏追放後の1万2500人削減を上回る規模だ。
工場閉鎖の衝撃
さらに日産は、2027年度までに世界17カ所の完成車工場を10カ所まで削減する計画を明らかにした。国内では主力拠点である追浜工場(神奈川県横須賀市)と、日産車体の湘南工場(同県平塚市)が閉鎖対象として浮上。地元自治体や関連サプライヤーに大きな衝撃を与えている。
この抜本的なリストラにより、日産は2026年度までに固定費と変動費を合わせて計5000億円削減する方針を掲げている。
本社売却という苦渋の決断
970億円で横浜本社を手放す
経営危機の深刻さを象徴するのが、2025年11月に発表された本社ビル売却だ。2009年に東京・銀座から移転し、創業の地・横浜に戻った思い入れのある本社を、日産は970億円で台湾系自動車部品メーカーのミンスグループなどが出資する特別目的会社に売却することを決めた。
売却後は「セール・アンド・リースバック」という仕組みを活用し、20年間の賃貸借契約を結んで同じ場所で業務を続ける。売却益739億円は特別利益として計上され、経営再建に伴う設備更新や業務改革に充てられる予定だ。
二度目の本社売却
実は日産にとって本社ビル売却は初めてではない。1990年代後半、2兆5000億円超の有利子負債を抱えていた同社は、当時の銀座本社ビルを森ビルに売却し、その後ルノーとの提携へと進んだ。四半世紀を経て、再び同じ選択を迫られた形だ。
内田社長の責任と求心力低下
報酬半減でも続投に批判の声
業績悪化を受けて、内田誠社長は役員報酬の50%返上を発表したが、続投する構えを見せている。しかし社内からは「報酬5割カットでは甘すぎる。経営陣全員が退任すべきだ」という厳しい声が上がっている。
内田社長は2024年5月に「私たちは順調に進んでいる」と述べていたが、わずか半年後にこの惨状である。経営判断の誤りや状況認識の甘さに対する批任は重く、求心力は風前の灯火となっている。
アクティビスト投資家の参入
業績悪化と株価低迷を受けて、物言う株主であるエフィッシモ・キャピタル・マネージメントと関係が深いファンドが大株主に浮上したことが判明した。経営陣へのプレッシャーは一層強くなる可能性がある。
ホンダとの統合協議:救済か連携か
経営危機に陥る日産に対し、2024年12月にはホンダとの経営統合に向けた協議が報じられた。しかし、これは対等な統合ではなく、救済色の濃い内容だとされる。ホンダ側は日産に対して厳しい条件を突きつけており、統合最終合意までには半年以上の「改革チェック期間」が設定されると報じられている。
仏ルノーや三菱自動車とのアライアンスとの整合性をどう取るのか、日産には複雑な調整が求められている。
日産再生への課題
商品開発力の回復が急務
日産が再生するためには、何よりも商品開発力を回復し、タイムリーに魅力的な新車を投入できる体制を構築することが不可欠だ。内田社長は開発期間を30カ月に短縮すると述べているが、適切なタイミングで商品投入ができなかった原因への言及はなかった。
財務基盤の立て直し
2025年3月期の最終損益は6708億円の赤字(4期ぶりの赤字転落)、2026年3月期も2750億円の営業赤字を見込むなど、財務状況は極めて厳しい。社債償還に向けた資金調達も難航しており、投資家の信頼回復が急務となっている。
「日産らしさ」の再構築
「技術の日産」として自動運転技術やプロパイロットなどの強みを持ちながら、それを経営の成果に結びつけられなかった日産。技術力を生かせる組織風土の改革と、明確な戦略の策定が求められている。
存続の岐路に立つ日産
日産は今、1999年のルノーによる救済に匹敵する、あるいはそれ以上に深刻な経営危機に直面している。大規模なリストラ、本社ビルの売却、そしてホンダとの統合協議と、企業としての存続をかけた正念場を迎えている。
「このままでは5年後に日産がなくなってもおかしくない」と元幹部さえも憂慮する状況だ。日本を代表する自動車メーカーの一角である日産が、この危機をどう乗り越えるのか。真の再生に向けて、経営陣の覚悟と実行力が問われている。


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