副業のつもりが地獄行き──ある日突然、2億円の借金を背負った普通のサラリーマンたち
「少しでも将来の足しになれば」──そんな軽い気持ちで不動産投資を始めた多くのサラリーマンたち。彼らの前に広がっていたのは、1億円を超える借金と、月々の返済額100万円超という地獄への入口だった。
2018年5月、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営していた株式会社スマートデイズが経営破綻し、オーナーたちへのサブリース賃料の支払いが停止された。そこから始まったのは、平成史に残る不動産投資詐欺の全貌だった。
巧妙な罠──なぜ社会的地位のある人々が騙されたのか
かぼちゃの馬車事件の被害者は、欲深い投資家などではない。副収入を得たいサラリーマンや医者、公務員たちがターゲットとされた。彼らは大手企業で働き、一定の収入と社会的信用を持つ人々だった。
「賃料30年保証、利回り8%」というセールストークに魅かれ、スマートデイズと提携するスルガ銀行から融資を受け、一棟1億円以上のシェアハウスを購入した。
しかし、この投資話には複数の罠が仕掛けられていた。
仕組まれた高額建築費
スマートデイズは建設会社から建築費の50%という法外なキックバックを受け取っていた。業界相場が2〜3%であることを考えると、異常な金額だ。この水増しされた建築費が、投資家への販売価格に上乗せされていた。
スルガ銀行の不正融資
さらに深刻だったのが、スルガ銀行の関与だった。銀行側がオーナーに事前に告げた後、年収資料や預貯金残高を改ざんするケースがあった。本来なら融資を受けられない人々に、不正な手段で巨額のローンを組ませていたのだ。
2018年10月、スルガ銀行は金融庁から業務改善命令を受けた。
崩壊のシナリオ
スマートデイズの最終管理棟数は845棟11,259部屋に達した。需要を大幅に上回る物件数により空室率は急上昇。市場より割高な価格で物件を販売することで家賃保証のマイナス分を補填し、既存顧客にサブリース賃料を支払うという自転車操業に陥っていた。
絶望の淵──月26万円の返済地獄
金利3.5%〜4.5%で1億円程度のローンを組んでいたオーナーは、毎月の返済額が100万円を超えるケースも多かった。サブリース収入がゼロになった瞬間、オーナーたちは自己資金で全額を返済しなければならなくなった。
売却も管理会社変更も不可能だった。土地と建物は相場より高額な値段設定で購入していたため、売却すると半分近く値下がりする状態だった。
自己破産する者、自殺する者も出る中、被害者たちは経済的にも精神的にも追い詰められていった。
反撃の狼煙──「おれたちはすでに経済的に死んでいる」
「おれたちはすでに経済的に死んでいる。これ以上何を恐れることがある?」ひとりの被害者が立ち上がり、仲間を集めて被害者同盟をつくった。
被害者たちは凄腕弁護士・河合弘之氏に依頼し、戦う相手を選んだ。すでに破産したスマートデイズではなく、不正融資を行ったスルガ銀行だ。
決死の白兵戦
河合弁護士の発案・指示のもと、被害者同盟のメンバーによる本店・支店前でのデモや株主総会での直談判が行われた。
初めてのデモでは怖じ気づく被害者たちに対し、河合弁護士自らがマイクを持って叫んだ。株主総会では経営者を徹底的に追い込んだ。地道な活動が、次第に地銀の雄・スルガ銀行の牙城を揺るがしていった。
奇跡の結末──440億円の借金帳消し
そして、金融史上前例のない決着が訪れる。
被害者約250名が抱える不動産担保ローン合計残高約440億円をスルガ銀行が「帳消し」にするという、金融史上前例のない解決となった。
当初、対象となったのは調停を申し立てていたオーナー257名(被害総額約440億円)だったが、その後2021年3月には285名(被害総額約440億円)、4月には404名(被害総額約605億円)についても調停が成立し、「かぼちゃの馬車事件」は全面解決を迎えた。
代物弁済という形で、被害者たちは物件をスルガ銀行に引き渡し、借金から解放された。絶望の淵から這い上がった、まさに逆転劇だった。
事件が残した教訓──あなたも被害者になりうる
この事件から学ぶべきことは何か。
「自己責任論」では片付けられない複雑さ
被害者の多くは、情報を収集し、慎重に検討した上で投資を決断した人々だった。しかし、巧妙に仕組まれた手口を回避することは難しかった。
銀行という社会的信用の高い組織までもが不正に関与していたという事実は、個人の注意力だけでは防ぎきれない問題の深刻さを物語っている。
不動産投資への影響
かぼちゃの馬車事件以降、不動産投資に対する融資の審査は厳しさを増しており、年収要件が厳しくなっただけでなく、不動産投資への融資を見送る金融機関も出てきている。
被害者たちの新たな使命
救済された被害者たちは、その後「SS同盟ReBorn」を結成。他の詐欺被害者を救済するために、河合弁護士らの活動を手伝っている。自らの苦しみを、他者を救う力に変えたのだ。
最後に──投資は慎重に、でも諦めずに
「かぼちゃの馬車」事件は、不動産投資そのものが危険なのではなく、悪質な業者と不正な金融機関が結託したときの恐ろしさを示している。
重要なのは、信頼できる不動産会社を選ぶこと。優秀な不動産会社であれば、投資家の投資目的をしっかりヒアリングした上で、それに合った物件や長期シミュレーションを提案してくれる。
2億円の借金から440億円の帳消しへ──。決して諦めず、仲間と共に戦い抜いた被害者たちの姿は、困難に直面したすべての人々への希望のメッセージとなっている。


コメント