「老後の生活設計がまた狂う」「年金が増えないのに保険料だけが上がり続ける」——SNSや掲示板にそんな声が溢れている。75歳以上が加入する後期高齢者医療制度の保険料が、2027年4月からの2年間(令和9・10年度)、過去最大規模の引き上げとなることが各地で相次いで決定している。少子高齢化で膨らむ医療費を誰が支えるのか。数字の背景と世間のリアルな声を読み解いていく。
まず確認——「後期高齢者医療制度」とはなんなのか
75歳(一部65歳以上の障害認定者含む)になると、それまで加入していた会社の健康保険や国民健康保険から自動的に後期高齢者医療制度へ移行する。現在の加入者は全国で約2,000万人にのぼる巨大制度だ。
その財源の仕組みはシンプルだが、今の問題の核心がここにある。年間医療費のうち、自己負担(1〜3割)を除いた残りを、公費(税金)が約5割、現役世代が支払う「後期高齢者支援金」が約4割、そして高齢者自身の保険料が約1割でまかなっている。つまり後期高齢者の医療費の9割近くは高齢者以外が支えている構造だ。
2027年度の引き上げ、具体的に何が変わる?
後期高齢者の保険料は2年ごとに見直され、2026年度までは令和8年度改定で上限額が年間80万円から85万円へ引き上げられることがすでに決まっている(厚生労働省は後期高齢者医療制度の年間保険料の上限を2026年度に現行の80万円から85万円に引き上げる方針で、加入者全体の約1.2%が対象になると見込んでいる)。
そして2027年4月からの令和9・10年度については、秋田県では均等割額が年間4万5,260円から5万5,996円に変更され、1万736円の増額となり、引き上げ幅は過去最大となった。所得割率も9.02%から9.73%に改定され、年間保険料の上限も80万円から85万円に引き上げられた。
各地の広域連合で順次決定が進んでいるが、共通するポイントをまとめると以下のとおりだ。
| 項目 | 2025年度まで | 2027年度から |
|---|---|---|
| 均等割額(秋田の例) | 年4万5,260円 | 年5万5,996円(+1万736円) |
| 所得割率(秋田の例) | 9.02% | 9.73% |
| 年間上限額(全国) | 80万円 | 85万円 |
| 一人あたりの増加額 | — | 年間約2,500〜1万円以上 |
所得に応じた軽減措置などが加わるものの、一人当たりの保険料の負担は年間で2,500円から1万円以上増えることになる。
なぜ「過去最大」の引き上げになるのか——3つの理由
理由①:現役世代の負担が制度創設時の1.7倍に膨らんでいた
制度導入時と比べ、後期高齢者は1.2倍に増えた一方、現役世代1人当たりの後期高齢者支援金は1.7倍に増えており、現役世代の負担がより重くなっている。この不均衡を是正するため、2024年度から「後期高齢者1人当たりの保険料」と「現役世代1人当たりの支援金」の伸び率が同じになるよう制度が見直された。2027年度の引き上げはその流れの延長線上にある。
理由②:医療費の膨張が止まらない
65歳以上の高齢者が日本の総人口に占める割合は約30%にのぼり、75歳以上だけでも約15%を超えている。高齢者が増えれば当然医療費は増大し、秋田県では75歳以上の人口が来年度で約20万2,000人となり、約4人に1人が後期高齢者という状況だ。医療費の財源確保は待ったなしの問題になっている。
理由③:金融所得も保険料に反映される方向へ
さらに注目すべきは、今後の制度改正の方向性だ。年齢にかかわらず公平な応能負担を実現するため、後期高齢者医療制度の窓口負担割合や保険料への金融所得の反映を実現するための法案が2026年通常国会に提出される見通しとなっている。株式の配当など、これまで保険料に算入されていなかった金融所得も加味する仕組みが整えば、資産を持つ高齢者の実質的な負担はさらに増える可能性がある。
ネット上のリアルな反応——賛否両論の本音
この一連の引き上げをめぐって、インターネット上では世代を超えた議論が活発に起きている。
高齢者・その家族からの批判的な声
「年金額は据え置きか微増なのに、保険料、介護保険料、物価高と三重苦だ」「自分たちの世代は年金も国民健康保険も払い続けてきた。老後になって報われないのはおかしい」「親の保険料通知書を見て絶句した。年金受給額の一割近くが保険料で消える」といった切実な声が多く見られる。特に「2年ごとに必ず上がる」という負担増の連続性に疲弊感を覚える人が少なくない。
現役世代からの比較的容認する声
一方で「現役世代の支援金が1.7倍になっていたのは事実。応分の負担は仕方ない」「収入に応じた引き上げならまだ理解できる。低所得者を守りながら高所得の高齢者に負担してもらうのは合理的」「自分たちが高齢になった時に制度が破綻していたら困る。今のうちに持続可能な仕組みにするべき」といった声も出ている。
制度そのものへの根本的な疑問
SNSでよく見かけるのが、個別の保険料水準への不満を超えた、制度設計への根本的な問いかけだ。「そもそも窓口負担が1割というのが優遇されすぎではないか」「医療費の無駄遣い(過剰な検査・投薬)を先にカットせよ」「議員定数や公務員の給与・退職金を削ってから言ってほしい」「財政が苦しいなら不要な公共事業を削れ」といった声は、世代を問わず共感を集めやすい。また「金融所得への課税・保険料反映は当然」と支持する声がある一方で、「資産課税の強化は高齢者の消費意欲を殺す」という反論も絶えない。
「自分はいくら上がるの?」増加額の目安
負担増の程度は収入水準によって大きく異なる。2027年度時点での大まかな目安は以下のとおりだ(地域差あり・あくまで参考)。
年金収入が153万円以下の方:低所得軽減の対象で、制度改正による保険料増は原則なし。
年金収入が200万円程度の方:所得割の引き上げにより年間数千円程度の増加が見込まれる。
年金収入が400万円程度の方:年間1万円前後の増加が見込まれる。
年金・給与収入合計が1,150万円以上の高所得層:上限額(85万円)の引き上げにより、年間数万円規模の増加となる可能性がある。
ただし、均等割の軽減(2〜7割)や、会社員の被扶養者だった方への特例措置(加入後2年間の所得割免除・均等割5割軽減)など、条件によっては実質的な増加を抑えられるケースもある。まずは住んでいる都道府県の「後期高齢者医療広域連合」か、市区町村の担当窓口に確認するのが確実だ。
今からできる準備と心構え
急な保険料増に対して、個人レベルで手を打てることはいくつかある。
まず「軽減区分の確認」だ。世帯所得が一定以下であれば均等割が自動的に軽減されるが、申告漏れや所得変動があると適用されないケースもある。収入の変化があった年は特に確認が必要だ。
次に「家計全体の保険料・税負担の棚卸し」だ。後期高齢者医療保険料だけでなく、介護保険料、住民税(税額は保険料算定に連動する場合がある)、医療費窓口負担の動向も合わせて把握し、老後の支出計画を定期的に見直したい。
さらに「金融所得の保険料算定への反映」が法整備されれば、配当収入が多い高齢者は実質的な負担がさらに増す可能性がある。資産運用の戦略を見直す必要が出てくる人もいるだろう。
「負担の公平」と「老後の安心」の間で
2027年4月からの後期高齢者医療保険料の引き上げは、単なる「高齢者への増税」ではなく、崩れかけた世代間の負担バランスを修正しようとする制度的な試みだ。制度発足以来、現役世代が不均衡に重い支援金を背負い続けてきた事実は重く、何らかの是正が避けられなかった側面もある。
しかし同時に、多くの後期高齢者が年金のみで生活している現実は無視できない。保険料の引き上げを繰り返すだけでなく、医療費の適正化や予防医療への投資、そして制度の抜本的な効率化も並行して求められる。
「長生きすることが経済的なリスクになる社会」にしないために——この問いへの答えを、私たちは世代を超えて共に考え続けなければならない。


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