知らないと損する!東京23区の火葬料金が異常高騰している理由
「火葬料金が9万円」――このニュースを聞いて、あなたは驚いただろうか。東京23区で人生の最期を迎える際、避けては通れない火葬の費用が、わずか4年間で約52%も値上がりしている事実をご存じだろうか。
2020年には5万9,000円だった火葬料金が、2024年には9万円に到達。全国平均の約1万円と比較すると、なんと9倍という驚愕の金額だ。札幌市や八王子市では無料、横浜市1万2,000円、千葉市6,000円という相場の中で、東京23区だけが突出して高い。
この異常事態の背景には、民営火葬場の寡占状態と、密かに進行していた外資参入という二つの大きな要因が隠されていた。
値上げの軌跡:2020年から2024年までの推移
東京23区内で火葬場の約7割を運営する「東京博善株式会社」。同社が管理する6つの火葬場(町屋・四ツ木・桐ケ谷・代々幡・落合・堀ノ内斎場)で起きた料金改定の実態を時系列で見てみよう。
2020年まで:5万9,000円 長年この価格で据え置かれていた火葬料金。全国的に見ても高額だったが、首都圏の物価を考慮すれば許容範囲と考えられていた。
2021年1月:7万5,000円(+1万6,000円) 最初の大幅値上げが実施され、一気に27%の増額となった。この時点で公営火葬場との価格差が明確になり始める。
2022年6月:燃料サーチャージ導入 固定料金に加えて、2カ月ごとに変動する燃料費特別付加料金(約1万円前後)が新設された。航空券のような仕組みが火葬にも導入され、実質的に8万5,000円前後に。
2024年6月:9万円(固定) サーチャージ制を廃止する代わりに、料金を9万円に一本化。2020年と比較すると約52.5%の増額となった。
この4年間の値上げペースは異常だ。一般的な物価上昇率をはるかに上回るこの急騰に、多くの都民が戸惑いを隠せない。
全国との比較で見えてくる東京23区の異常性
総務省の調査データによると、全国主要88都市の火葬料金の平均は約1万円。無料の自治体も多数存在する。
- 札幌市、宇都宮市など9道県庁所在地:0円
- 津市:3,000円
- 横浜市:1万2,000円
- 千葉市:6,000円
- 埼玉市:7,000円
- 鳥取市、那覇市:2万5,000円
対して東京23区は9万円。横浜市の7.5倍、全国平均の9倍という桁違いの金額設定だ。
同じ東京都内でも公営火葬場は大きく異なる。江戸川区の都立瑞江葬儀所は5万9,600円、港・品川・目黒・大田・世田谷区の組合が運営する臨海斎場は区民なら4万4,000円で利用できる。民営の東京博善とは最大4万6,000円もの差が生じている。
なぜ東京23区だけが高いのか:民営火葬場の構造的問題
97%が公営という全国標準
厚生労働省のデータによると、全国1,364カ所ある火葬場のうち97%が公営だ。火葬は誰もが必ず必要とする公共サービスであり、多くの自治体が税金を投入して住民負担を軽減している。
ところが東京23区は大きく異なる。全9カ所の火葬場のうち、公営はわずか2カ所のみ。残り7カ所が民営で、そのうち6カ所を東京博善が独占運営している。実に火葬の7割を1社が握る寡占状態にあるのだ。
新設が困難という地理的制約
東京23区で新たに火葬場を建設することは、ほぼ不可能とされている。人口密集地では住民の理解を得ることが極めて難しく、用地確保も困難だ。この「参入障壁の高さ」が、既存事業者の価格決定権を強めている。
利用者には選択肢がない。住んでいる地域によっては、高額でも東京博善の火葬場を利用せざるを得ない状況だ。
中国資本参入の衝撃:東京の火葬場で何が起きたのか
火葬料金の高騰には、もう一つの重要な背景がある。それが外資、特に中国資本の参入だ。
広済堂ホールディングスの経営難と株式売却
東京博善の親会社である広済堂ホールディングス(旧廣済堂)は、印刷業を本業とする企業だ。しかし近年、印刷業の不振により経営が悪化。本業は赤字続きで約300億円もの負債を抱える一方、子会社の東京博善が年間80億円超の売上高と20億円前後の利益を生み出す優良企業として、黒字化を支えていた。
この優良資産に目をつけたのが、複数の投資ファンドだった。2019年頃から株式買収合戦が勃発。村上ファンドなどの投機筋が参入する中、火葬場の株主であった寺院や僧侶たちが、当時の麻生グループに「中国資本による買い占めを防いでほしい」と相談。麻生グループは保有比率20%超まで株式を取得し、安定株主として介入した。
羅怡文氏と中国資本の台頭
しかし2019年7月、状況は一変する。広済堂の大株主であったHISの澤田秀雄会長が保有株を売却。その売却先が、中国人実業家・羅怡文(らいぶん)氏が率いるラオックスグループの「グローバルワーカー派遣」という人材派遣会社だった。
羅氏は免税店ラオックスの経営で知られる実業家。同氏の関連企業は株式買い増しを続け、2022年1月には第三者割当増資により、広済堂株の40%超を取得。結果として、東京博善は実質的に中国資本の影響下に入ることとなった。
同年3月、東京博善は広済堂の完全子会社となり、羅氏は広済堂ホールディングスの代表取締役会長に就任。麻生グループは株式売却を余儀なくされ、東京23区の火葬場の約70%が中国系資本の実質的支配下に置かれる事態となった。
中国資本の狙いとは
なぜ中国資本が日本の火葬場に注目したのか。複数の理由が指摘されている。
第一に、中国国内での事業展開を見据えた技術獲得だ。中国では従来、土葬が主流だったが、共産党主導で火葬への移行が進められている。東京博善が持つロストル式火葬炉は、800〜1000度の高温で短時間に火葬でき、環境負荷も少ない。この技術とノウハウは、環境問題に敏感になっている中国市場で大きな価値を持つ。
第二に、安定収益が見込める独占事業としての魅力だ。高齢化が進む日本では、2040年まで死亡者数が増加する見込み。東京都に限れば2065年まで増加が予測されており、火葬需要は長期的に拡大する。新規参入が困難な市場で7割のシェアを持つ企業は、投資対象として極めて魅力的だったのだ。
値上げ理由は正当か:東京博善の主張と疑問の声
東京博善は値上げの理由として「安定的な火葬事業の継続」を挙げている。具体的には、燃料費・修繕費・人件費の高騰に対応するためとしており、「費用が低減すれば値下げも検討する」とコメントしている。
確かに、ロストル式火葬炉は耐火レンガの消耗が激しく、メンテナンスコストがかかる。1炉で1日7回稼働できる高性能炉であるがゆえの課題だ。
しかし、葬儀業界関係者からは疑問の声が上がっている。東京都葬祭業協同組合の鳥居充理事長は「収支の透明性が不明確なまま値上げが行われている」と指摘。「公益性・永続性・非営利性が求められる火葬場が、営利企業として振る舞っている」との批判も強い。
年間93億円超の売上高、純資産355億円という超優良企業が、本当にこれほどの値上げを必要としているのか。財務状況の開示を求める声は大きい。
区民葬制度の廃止と行政の対応
問題はさらに深刻化している。東京博善は2026年4月から「区民葬」制度からの脱退を発表した。
区民葬とは、自治体と葬儀社が協定を結び、区民に割安な葬儀サービスを提供する制度だ。これまで区民葬を利用すれば、東京博善の火葬場でも5万9,600円で火葬できた。しかし制度廃止後は、通常料金(9万円から8万7,000円に改定予定)を支払う必要がある。
東京博善は「非加盟葬儀社から『不公平だ』との声がある」と説明するが、実質的には約3万円の値上げとなる。
これに対し23区の特別区長会は、差額を補助する助成制度の創設を検討中だ。しかしこれは税金投入を意味する。「本来は料金を下げるべきで、税金で穴埋めするのは本末転倒」との批判も根強い。
東京都も重い腰を上げた。小池百合子都知事は2024年9月の都議会で「火葬場の指導強化を通じて都民負担の軽減を図る」と表明。国に対しても墓地埋葬法の見直しを求める方針を示している。
法的規制の限界:なぜ行政は介入できないのか
現行の墓地埋葬法では、火葬場の経営主体は原則として地方自治体とされている。民間の参入は、1968年の厚生省通知以前から運営していた事業者に限られる「例外」扱いだ。
しかし法律には料金設定についての基準が一切示されていない。このため、行政が民間火葬場の料金に改善命令を出すことは極めて困難だ。区や都には指導監督権があるものの、具体的な価格統制は法的根拠を欠く。
「誰もが必ず利用する公共インフラ」でありながら、料金規制が存在しないこの矛盾が、今日の事態を招いた一因といえる。公明党東京都本部はプロジェクトチームを立ち上げ、2年前から国や自治体に対応を求めているが、法改正には時間がかかる見通しだ。
負担を抑える方法:利用者ができる選択肢
高額な火葬料金に直面した時、都民にはどのような選択肢があるのか。
1. 公営火葬場を利用する
最も確実な方法は、公営火葬場を選ぶことだ。
- 臨海斎場(大田区):港・品川・目黒・大田・世田谷区民なら4万4,000円。それ以外でも8万8,000円
- 瑞江葬儀所(江戸川区):都民なら5万9,600円
ただし、自宅からの距離によっては遺体搬送料が高額になり、結果的に負担が変わらない可能性もある。
2. 近隣の火葬場を検討
- 谷塚斎場(埼玉県草加市):7万4,000円。足立区など埼玉寄りの地域から利用しやすい
- 戸田葬祭場(埼玉県戸田市):民営だが東京博善より選択肢が増える
3. 葬祭費給付金を活用
国民健康保険や後期高齢者医療制度の被保険者が亡くなった場合、3万〜7万円の葬祭費が支給される。東京23区では7万円だ。申請期限は葬儀後2年以内。企業の健康保険組合では「埋葬費」として5万円前後が支給されるケースもある。
4. 生活保護の葬祭扶助
生活保護受給者が葬儀を執り行う場合、約20万円を上限に葬祭扶助が受けられる。火葬料は自治体から火葬場へ直接支払われることもある。
今後の展望:多死社会を迎える東京で何が必要か
東京都の死亡者数は2065年頃まで増加が見込まれている。公営火葬場の瑞江葬儀所や臨海斎場では火葬能力の増強が予定されているが、それでも23区の火葬需要の3分の1程度にとどまる見込みだ。
つまり、高額でも民営火葬場を利用せざるを得ない状況は今後も続く可能性が高い。
東京都葬祭業協同組合の鳥居理事長は「自治体が責任を持って整備すべき公共インフラを民間に甘えてきたツケだ」と厳しく指摘する。戦後80年間、都が民間に運営を委ねてきた結果が、今日の状況を生んだという批判だ。
シニア生活文化研究所の小谷みどり代表理事も「火葬は誰もが一度は利用する公共サービスであるべきだ」と主張。「都は早急に動くべきで、まず都がやるべきことをすぐやってほしい」と求めている。
求められているのは以下の対策だ:
- 公営火葬場の増設:新規建設が困難でも、既存施設の拡張や広域連携の強化
- 料金の透明化:収支状況の開示義務付けと、適正価格の基準設定
- 法改正:墓地埋葬法の見直しにより、料金規制や公益性確保の仕組み構築
- 外資規制:公共インフラとしての火葬場を外資から守る制度整備
まとめ:知っておくべき火葬料金問題の本質
東京都の火葬料金9万円への値上げは、単なる物価上昇の結果ではない。4年間で約52%という異常な増額の背景には、民営火葬場の寡占状態と中国資本の参入という構造的問題が存在する。
誰もが人生の最期に必ず必要とする火葬というサービス。それが「選択の自由がない中での高額化」という事態に陥っている現実を、私たち都民は知っておく必要がある。
公営火葬場の活用、葬祭費給付金の申請、事前の情報収集――できることから始めながら、同時に行政や政治に声を上げていくことが重要だ。
火葬は義務であり、公共サービスでもある。その料金が9倍も違うという異常事態を、私たちは放置してよいのだろうか。この問題は、高齢化が進む日本全体にとっても、決して他人事ではないはずだ。



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