真面目に年金を払った人が損をする?制度の矛盾とは
「40年間年金保険料を納めてきたのに、受給額が生活保護より少ない」──こうした声は、高齢者の間で珍しくありません。国民年金を満額納めても月額約6万8千円。一方、生活保護の生活扶助基準額は地域や世帯構成により異なりますが、都市部の単身高齢者で月7万円前後となるケースもあります。
さらに医療費の扱いには大きな差があります。年金受給者は原則として医療費の1割から3割を自己負担する必要がありますが、生活保護受給者は医療扶助により全額が公費で賄われます。この違いが「不公平ではないか」という議論を生んでいるのです。
なぜ生活保護の方が手厚いのか?制度設計の背景
この問題を理解するには、年金と生活保護という二つの制度の性質を知る必要があります。
年金制度の本質は社会保険です。現役時代に保険料を納付し、老後に給付を受ける仕組みで、基本的には「自分が納めた分に応じて受け取る」という考え方に基づいています。ただし完全な積立方式ではなく、現役世代が高齢者を支える賦課方式が採用されているため、世代間の不公平感も生まれやすい構造です。
一方、生活保護は最後のセーフティネットとして位置づけられています。憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を実現するための制度であり、資産や収入が一定基準以下の人に対して必要な支援を行います。医療費が無料なのは、経済的理由で必要な医療を受けられない事態を防ぐためです。
つまり、年金は「保険料拠出に基づく給付」であり、生活保護は「必要に応じた最低生活の保障」という、根本的に異なる目的を持った制度なのです。
医療費無料は本当に不公平なのか?
生活保護における医療費全額公費負担については、さまざまな角度から検証する必要があります。
賛成派の論理としては、健康は生活の基盤であり、医療へのアクセスを経済状況で制限すべきではないという考えがあります。重症化してから高額な医療費がかかるより、早期受診を促した方が社会全体のコストも抑えられるという指摘もあります。
反対派の指摘では、一部に過剰受診や医療機関の不適切な診療があるのではないかという懸念が示されます。自己負担がないことで医療費抑制のインセンティブが働きにくい面は否定できません。年金生活者が医療費負担に苦しむ中、全額無料という制度に違和感を持つ人がいるのも理解できます。
ただし、生活保護受給には厳格な資産調査があり、預貯金や不動産などの活用が求められます。親族による扶養の可能性も確認されるため、簡単に受給できるわけではありません。
年金受給者への支援策は存在する
実は年金受給者にも、所得や医療費負担の状況に応じた支援制度が用意されています。
高額療養費制度では、1か月の医療費が一定額を超えた場合、超過分が払い戻されます。低所得者の場合、自己負担上限額は月額1万5千円程度に設定されており、重い病気でも破産的な医療費負担を防ぐ仕組みがあります。
年金生活者支援給付金は、一定の所得基準以下の年金受給者に対して月額最大5千円程度が支給される制度です。また、住民税非課税世帯には国民健康保険料の減免措置もあります。
これらの制度は自動的に適用されるわけではなく、申請が必要なケースも多いため、知らずに利用していない人も少なくありません。
本当の問題は何か?格差の根本原因
生活保護と年金の「逆転現象」の背景には、より深刻な構造的問題があります。
第一に、国民年金の給付水準の低さです。満額でも月約6万8千円という金額は、都市部で一人暮らしをするには明らかに不足しています。これは制度発足時の設計が、高度成長期の家族形態や経済状況を前提としていたためです。
第二に、非正規雇用の増加と保険料未納問題があります。経済的理由で保険料を払えなかった期間がある人は、満額より少ない年金しか受け取れません。結果として、働いてきたのに老後の生活が成り立たないという矛盾が生じます。
第三に、医療費の自己負担割合の変化です。高齢化と医療費増大を背景に、一定所得以上の高齢者の自己負担割合は段階的に引き上げられてきました。
これからの社会保障をどう考えるか
この問題に単純な答えはありません。「生活保護の給付を削減すべき」という意見もあれば、「年金の給付水準を引き上げるべき」という主張もあります。
重要なのは、制度間の整合性と持続可能性のバランスです。生活保護の医療費を一部自己負担にすれば、受診抑制により健康状態が悪化し、結果的に社会的コストが増大する可能性があります。逆に年金を大幅に増額すれば、将来世代の負担が重くなりすぎるかもしれません。
また、情報の非対称性の解消も必要です。利用できる支援制度を知らない人が多い現状は、制度の公平性を損なっています。自治体や年金事務所による積極的な情報提供が求められます。
対立ではなく共生の視点を
生活保護と年金をめぐる議論は、しばしば受給者同士を対立させる形で語られます。しかし本質的には、どちらも高齢者の生活を支えるために必要な制度です。
問題の核心は、長年働いて保険料を納めてきた人が尊厳ある老後を送れない社会構造にあります。生活保護受給者を責めるのではなく、すべての高齢者が安心して暮らせる仕組みを、世代を超えて考えていく必要があるのではないでしょうか。
制度の見直しには痛みが伴いますが、持続可能で公平な社会保障の実現に向けた建設的な議論が、今こそ求められています。


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