釧路湿原を揺るがすメガソーラー建設問題
北海道釧路市で起きているメガソーラー建設問題が、全国的な注目を集めています。大阪に本社を置く日本エコロジーが、釧路湿原周辺の複数地区でメガソーラー施設の建設を計画。しかし、釧路市が希少生物の調査について市と協議が続く中、先月から木の伐採をすでに始めており、行政指導を無視した強行姿勢が問題視されています。
本記事では、なぜ釧路市が行政指導を行ったのか、その背景と理由を詳しく解説します。
行政指導の核心:希少生物調査が不十分
釧路市が日本エコロジーに対して行政指導を行った最大の理由は、希少生物の生息調査が著しく不十分だったことです。
タンチョウ調査の実態
釧路市立博物館によりますと、事業主の日本エコロジーが行ったタンチョウの調査は専門家への聞き取りだけで、現地での生息調査は行われていませんでした。特別天然記念物であるタンチョウは釧路湿原を代表する希少種です。にもかかわらず、現地調査なしで「影響なし」と結論づけられたことは、環境保全の観点から重大な問題といえます。
実際に、今年7月、HTBのカメラが建設現場近くを歩く2羽のタンチョウの姿を捉えました。つがいでしょうか。近くには、この春、生まれたばかりのヒナの姿も確認できました。建設現場から100メートルほどの場所でタンチョウの親子が確認されており、事業者の調査が実態を反映していなかったことが明らかになりました。
オジロワシの調査不足
国の天然記念物であるオジロワシについても、調査は極めて不十分でした。環境省のガイドラインでされていますが、実際には去年10月に3日間行われただけでした。環境省は繁殖期である2月中旬から9月下旬まで、最低でも毎月3日間の調査を求めていますが、日本エコロジーはこれを満たしていませんでした。
さらに、普段からこの木に留まっている様子が近くに住む人に度々、確認されていました。その木が22日、メガソーラー建設のために伐採されましたという事態も発生しています。
チュウヒの未調査
最も深刻なのは、日本で繁殖する猛禽類のうち最も生息数が少ないチュウヒについて、調査すら実施していなかったことです。このような調査の欠落は、環境影響評価として明らかに不適切です。
法令違反の発覚が行政指導を後押し
希少生物調査の不備に加えて、複数の法令違反が明らかになったことも、行政が強い姿勢を取る理由となりました。
森林法違反
日本エコロジーは当初、開発予定地約4・2㌶のうち森林開発面積を0・3㌶とする事業計画を提出していた。しかし、実際の森林開発面積は0・86㌶あったことが、今年8月の道と釧路市の調査で発覚した。2023年4月以降、太陽光発電施設の設置目的では0.5ヘクタール以上の開発に都道府県知事の許可が必要ですが、日本エコロジーは許可を得ずに工事を進めていました。
北海道は2024年9月2日、森林法違反として工事の一部中止を勧告しました。
盛土規制法違反
日本エコロジーは4月21日までに届け出が必要だったが、それをしていなかった。釧路市では2024年4月から盛土規制法が適用されており、北斗地区は規制区域に指定されていました。届出義務を怠ったことは、規制逃れと指摘されています。
市街化調整区域の落とし穴
なぜ日本エコロジーは行政指導を無視してまで工事を強行できたのでしょうか。その背景には、市街化調整区域における規制の隙間があります。
周辺は原野商法で細分化された市街化調整区域。建物は建てられず売り手もなく放置されてきた。市街化調整区域では原則としてメガソーラーの開発許可や建築確認が不要な場合が多く、同社の工事も進められてきた。
つまり、従来の法体系では十分な規制ができない「グレーゾーン」が存在し、事業者がその隙を突いて開発を進めてきたのです。
駆け込み着工という戦略
釧路市は2024年10月に太陽光発電施設の設置を市長の許可制とする条例を制定しました。しかし、この条例が適用されるのは2025年1月1日以降に着工する工事です。
釧路市は、10月に太陽光発電施設の設置を市長の許可制とする条例を制定しました。しかし、来月1日以降に始まる工事が対象で住民は「駆け込み工事だ」と指摘します。
日本エコロジーは条例施行前に着工することで、新たな規制を回避する戦略を取りました。昭和地区では12月22日、大楽毛地区では12月25日に伐採を開始しており、条例適用を逃れる意図が明確です。
行政と事業者の対立激化
釧路市は2024年12月24日、市の文化財保護条例に基づき、日本エコロジーに許可申請を提出するよう文書で通知しました。しかし、日本エコロジーは今月8日、「調査は実施済みで許可申請の手続きは不要」、「今回の通知は事業妨害で重大な違法性を帯びる可能性がある」などと回答していたと報じられています。
事業者側は、釧路市に届け出が受理されていることを根拠に、工事を進める権利があると主張。一方、釧路市は希少生物への影響を懸念し、工事中断を求めるという対立構造になっています。
全国的な注目と政治の動き
この問題は、登山家の野口健さんらの発信によりSNSで拡散され、全国的な関心事となりました。造成工事中の現場を撮影した動画投稿が発端となり、著名人によるSNS発信によりメガソーラー開発への批判が全国に広がったのです。
国会議員も相次いで現地を視察し、文化庁は調査が不十分なまま工事が行われている場合、原状回復を命じる可能性があるという見解を示しました。太陽光発電施設の建設について文化庁が見解を示すのは全国初のことです。
再生可能エネルギーと環境保全の両立
この問題は、再生可能エネルギー推進と環境保全の両立という、日本全体が直面する課題を象徴しています。太陽光発電は重要なクリーンエネルギーですが、適切な環境配慮なしに進めれば、かえって自然破壊につながります。
釧路市の木村隼人市議などが工事内容を精査し、数々の法令違反の疑いを追及。当初は静観していた行政を動かし、北海道は25年9月、計画以上の伐採を理由に工事の一部中止勧告という強い措置に踏み切ったように、市民や議員の声が行政を動かしました。
行政指導の正当性
釧路市が日本エコロジーに行政指導を行った理由は明確です。
- 希少生物調査の著しい不足:タンチョウ、オジロワシ、チュウヒなど希少種の調査が環境省ガイドラインや実態に照らして不十分
- 複数の法令違反:森林法、盛土規制法など法的義務の不履行
- 住民合意の欠如:地域住民からの強い反対にもかかわらず工事を強行
- 文化財保護の観点:天然記念物の生息環境への影響
行政指導は、貴重な自然環境と希少生物を守るための正当な措置といえます。一方、日本エコロジーが指導を無視して工事を強行する背景には、条例施行前の駆け込み着工という戦略と、既存の法規制の隙間を突く手法があります。
この問題は、環境保全と開発のバランス、規制の実効性、そして地域の声をどう反映させるかという、現代日本が抱える課題を浮き彫りにしています。釧路湿原という国際的にも貴重な自然遺産をどう守るのか、今後の展開が注目されます。


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