二人のスーパースターを結んだ青春の縁
日本野球界が生んだ二大レジェンド、イチローと松井秀喜。米野球殿堂入りを果たしたヒットメーカーと、日米通算507本塁打を誇るホームランアーティストは、実は高校時代から深い縁で結ばれていた。
彼らの物語は、愛知県名古屋の愛工大名電高校の寮で始まった。
中学時代から続く因縁の対戦
松井が石川・根上中2年生の時、中部地区の代表チームがナゴヤ球場で戦う大会で、イチローは愛知・豊山中3年生として別のチームに所属していました。当時から「すごいピッチャーがいる」と評判だったのがイチローでした。
松井は開会式の時に何度もイチローをチラ見していたといいます。しかし、運命のいたずらか、松井のチームは1回戦を勝ち上がったものの、イチローのチームは前の試合で敗退してしまい、二人の直接対決は幻に終わりました。
高校時代の練習試合で実現した遭遇
時は流れて高校時代。イチローは愛工大名電高、松井は石川県の名門・星稜高に進学しました。両校は練習試合を何度か実施し、金沢と名古屋を行ったり来たりする関係にありました。
星稜高1年生だった松井は、定期戦でイチローのプレーを目の当たりにしました。イチローは2試合で6本ほど簡単にヒットを打っていました。しかし驚くべきことに、松井は中学時代に見たイチローと同一人物だとは気づいていなかったのです。
伝説の「風呂場エピソード」の真相
そして、この二人を語る上で欠かせないのが、愛工大名電高の寮での出来事です。
翌年の定期戦が雨で中止となった際、星稜高が名電の寮に宿泊することになりました。その時、名電の下級生部員から「松井さんおられますか?鈴木先輩が呼んでおられます」と呼び出されたのです。
部屋に向かうと、そこには驚きの光景が待っていました。なんとパンツ一枚姿のイチロー先輩に、立て続けに質問攻めされたというのです。「プロ行きたいの?」「このピッチャーと対戦したことある?どんなピッチャーだった?」と、未来のプロ野球選手が未来のスーパースターに野球談義を仕掛けた瞬間でした。
風呂の順番が生んだ30年越しのネタ
さらに興味深いエピソードがあります。松井が後年語ったところによると、イチローは今でも会うたびに「俺より先に風呂に入った」と言うそうです。松井は笑いながら「一応ゲストだから、こっちは」と弁解しますが、この風呂の順番をめぐるやり取りは、30年以上経った今でも二人の間の定番ネタとなっています。
当時2年生だった松井が、先輩であるイチローよりも先に寮の大浴場に入って体を洗っていたことを、イチローは今でも忘れていないのです。高校球児らしい上下関係の厳しさと、それを笑い話にできる二人の関係性が垣間見える温かいエピソードです。
甲子園での明暗
高校3年生の夏、二人は甲子園で異なる運命を辿ります。
1990年夏、1年生で4番を任された松井は初戦で敗退。同じ年に出場していたイチロー(当時は鈴木一朗)も初戦敗退という結果でした。
そして1992年、松井最後の夏。明徳義塾戦での5打席連続敬遠という前代未聞の出来事は、イチローが後に「敬遠でグラウンドにモノが投げ込まれて試合が止まったなんて、歴史上あれだけでしょ」と語るほど衝撃的な出来事でした。
現役時代は交わらなかった二つの道
プロ入り後、二人は異なる道を歩みます。イチローは1991年ドラフト4位でオリックスへ、松井は1992年ドラフト1位で巨人に入団しました。現役時代に同じユニホームを着てプレーすることはなく、松井がヤンキースに在籍した2003年から2009年と、イチローが同チームに移籍した2012年のシーズン途中から2014年までは時期がずれていました。
接点らしい接点はなく、メディアは勝手にライバル関係を強調しました。松井は冗談交じりに「みなさんが勝手にいろいろ書いているから、何かお互いが思ってないのに、何となく距離感がある感じはありました」と振り返っています。
引退後の「急接近」
転機は2024年でした。高校野球女子選抜と対戦するイチローのチームに、松井が参戦したのです。イチローは「去年、ゲームに来てもらって、話をして、飯を食って、酒を飲んで、今まで滞っていた感じがサーッと流れて、気持ちのいい時間なんですよ」と語りました。
引退して肩の荷が下りた今、二人は率直に語り合えるようになりました。イチローは「なんか時間が経って話してみると、すごく面白くて。こんな率直な人なんだって」と松井の新たな一面を発見したと明かしています。
30年越しに蘇った青春の縁
松井は「昔からの縁が去年から急に、今から30何年前のご縁が、そういうときから実は見えてたんじゃないかなと」と感慨深げに語っています。
中学時代の大会での遭遇、高校時代の練習試合、そして名電寮の風呂場での出来事。これらすべてが、30年以上の時を経て一本の線でつながったのです。
現在、二人は野球教室やイベントで共に若い世代を指導し、日本野球の未来について語り合っています。パンツ一枚で質問攻めをした17歳の少年と、先輩より先に風呂に入ってしまった16歳の少年は、今や51歳と50歳のレジェンドとして、新たな物語を紡いでいます。
高校時代の何気ない出来事が、数十年後に二人の絆を深めるきっかけとなる――これこそが、スポーツが持つ不思議な力なのかもしれません。



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