理想と現実のギャップ
北欧の福祉国家として知られるスウェーデン。美しい自然、高い生活水準、充実した社会保障制度で「世界で最も住みやすい国」の一つとして長年称賛されてきました。
しかし近年、この国の治安状況が急激に悪化しているという報道が世界中で注目を集めています。
2024年時点で、スウェーデンは銃犯罪の発生率がEU内でトップクラスとなり、かつての平和な国のイメージとは大きく異なる現実に直面しています。この変化の背景には何があるのでしょうか。
スウェーデンの移民受け入れ政策の歴史
スウェーデンは1980年代から積極的に移民を受け入れてきました。人道主義の精神に基づき、戦争や迫害から逃れてきた人々に門戸を開き続けました。特に2015年のヨーロッパ難民危機では、人口約1000万人の国でありながら16万人以上の難民申請を受け入れました。これは人口比率で見るとEU諸国の中でも最も高い水準でした。
当初、この政策は国際社会から高く評価されていました。しかし受け入れ体制の整備が追いつかず、統合政策が十分に機能しなかったことで、予期せぬ問題が浮上してきたのです。
急増する銃犯罪とギャング組織
最も深刻な問題は、ギャング間の抗争による銃犯罪の急増です。スウェーデン国家犯罪予防評議会によると、銃による殺人件数は2010年代から増加傾向にあり、2022年には62件を記録しました。これはEU諸国の中でも突出した数字です。
特に問題となっているのは、移民背景を持つ若者たちが組織化したギャング集団です。マルメ、ストックホルム、イェーテボリなどの大都市では、麻薬取引の縄張り争いによる銃撃戦や爆破事件が頻発しています。2023年には爆発物を使用した事件が100件以上発生し、住民は恐怖の中で生活することを余儀なくされています。
なぜこうなったのか:統合の失敗
問題の根源は「統合政策の失敗」にあると多くの専門家が指摘しています。
雇用の壁: 言語の壁や学歴の認定問題により、移民の失業率は一般市民の2倍以上に達しました。特に若年層の失業率は深刻で、社会から疎外されたと感じる若者が増加しました。
居住地の分断: 移民は特定の地域に集中して居住するようになり、「並行社会」が形成されました。これらの地域では警察や救急車が入りにくい「脆弱地域」が生まれ、法の支配が及びにくい状況が生まれています。
世代間の断絶: 第二世代、第三世代の若者たちは、親の文化と受け入れ国の文化の間で identity crisis に陥り、帰属意識を持てない状況に置かれました。
スウェーデン政府の対応
事態を重く見たスウェーデン政府は、近年政策を大きく転換しています。2021年には移民受け入れ基準を厳格化し、難民認定のハードルを上げました。また、ギャング犯罪に対しては刑罰の厳格化、警察の増員、脆弱地域への集中的な介入などを進めています。
しかし、すでに形成されたコミュニティの問題を解決するには長い時間がかかることが予想されています。
日本への教訓:他人事ではない現実
「日本は島国だから関係ない」と考えるのは早計です。日本でも外国人労働者の受け入れは年々増加しており、2023年時点で約300万人の外国人が日本に居住しています。特定技能制度の拡充により、今後さらに増加することが見込まれています。
日本が学ぶべきポイント:
1. 受け入れと統合は別の課題: 外国人を受け入れるだけでなく、日本社会に統合するための包括的な支援体制が必要です。言語教育、職業訓練、住居支援などを体系的に提供する必要があります。
2. 地域の分断を防ぐ: 特定地域への集中居住を避け、多様なコミュニティとの接点を作ることが重要です。日本語教育の機会を増やし、地域社会との交流を促進する必要があります。
3. 第二世代への支援: 日本で生まれ育つ外国ルーツの子どもたちへの教育支援や、アイデンティティ形成のサポートが欠かせません。
4. 治安維持の体制整備: 組織犯罪の芽を早期に摘むための情報収集と警察力の強化も並行して進める必要があります。
共生社会実現のために
スウェーデンの経験は、「善意だけでは問題は解決しない」という厳しい現実を示しています。移民受け入れそのものが悪いのではなく、受け入れ後の統合政策が不十分だったことが問題の核心です。
日本はまだスウェーデンほどの規模で移民を受け入れていません。だからこそ、今のうちに適切な制度設計を行い、統合政策に十分なリソースを投入する時間があります。
多文化共生社会の実現には、受け入れ側の社会も変化する覚悟が必要です。同時に、新しく来る人々にも日本社会のルールや価値観を理解してもらう努力が求められます。双方向のコミュニケーションと相互理解こそが、スウェーデンの轍を踏まないための鍵となるでしょう。
北欧の先進事例から学び、日本独自の「統合モデル」を構築していくこと。それが今、私たちに求められている課題なのです。


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