元WBC世界バンタム級王者・薬師寺保栄被告に対し、日本ボクシングコミッション(JBC)が新たな処分を下した。処分の対象となったのは、養子縁組届を偽造して名古屋市の区役所に提出したとされる事件だ。JBCはこの行為について「プロボクシング界の権威と信用を著しく毀損するもの」と厳しく断じ、薬師寺被告が保有するクラブオーナーライセンスを6カ月間停止する処分を科した。なぜ元世界王者はここまで厳しい処分を受けたのか。事件の経緯と今後の見通しを整理する。
1.薬師寺保栄に6カ月のライセンス停止処分
JBCは2026年8月13日付で、薬師寺保栄被告(58)に対する処分を告示した。停止期間は同日から2027年2月12日までの6カ月間で、対象となるのは「クラブオーナーライセンス」だ。薬師寺被告は名古屋市中区で「薬師寺ジム」の会長を務めており、今回の処分は現役選手時代の資格ではなく、ジムを経営するオーナーとしての立場に対して科されたものである点に注意したい。現役引退から30年近くが経った現在も、薬師寺被告はボクシング界に籍を置く経営者として活動してきたが、今回の一件でその立場が大きく揺らぐことになった。
2.なぜ処分された?養子縁組届偽造事件の概要
処分の発端となったのは、有印私文書偽造・同行使などの罪で薬師寺被告が在宅起訴された事件だ。起訴状によると、薬師寺被告は交際相手の女性(29)を自身の養子とするため、養子縁組届の養母の署名押印欄に、当時の妻の名前を無断で記入して押印し、偽造したとされる。この偽造された届出は2024年11月、名古屋市中区役所に提出された。共謀したとされる女性も同じ罪で在宅起訴されており、2人はそろって法廷に立つことになった。
検察側の主張によれば、薬師寺被告と女性は約10年前にテレビ番組での共演をきっかけに交際が始まったという。当時、妻との離婚協議がまとまらない状況にあった薬師寺被告は、自身の財産を女性に相続させる目的で養子縁組の手続きを進めようとしたとされる。
3.薬師寺保栄は初公判で何を語った?
2026年8月5日、名古屋地裁で初公判が開かれた。薬師寺被告は起訴内容について「間違いありません」と認めた。被告人質問では、女性との年齢差に触れながら「自分の財産を少しでも渡してあげたいと思った」と動機を語ったほか、妻とはすでに離婚が成立しているとした上で「今後は養子縁組を解消し、女性と結婚したい」との考えを示したという。
検察側は論告で、養子縁組という制度を安易な動機で悪用した点を問題視し、薬師寺被告と女性それぞれに懲役1年を求刑した。一方、弁護側は「素直に事実を認め、反省している」として執行猶予付き判決を求めた。裁判は即日結審し、判決は2026年9月16日に言い渡される予定だ。
4.なぜJBCは「権威と信用を著しく毀損」と判断したのか
刑事事件としての判断は9月の判決を待つ形となるが、JBCはそれとは別に、団体としての処分を先行して下した。JBCが公表した告示では、クラブオーナーという立場が所属選手や練習生を直接指導し、ボクシングというスポーツを通じてスポーツマンシップを教える役割を担っていることが強調されている。その立場にある者が刑罰法規に触れる行為に及んだことは、単なる私生活上の問題にとどまらず、競技団体全体の信頼にかかわる重大事だとJBCは判断した。処分はJBC倫理委員会の答申を踏まえた上で決定されており、組織としての慎重な検討を経た結果であることがうかがえる。
5.薬師寺保栄とは何者?元WBC世界王者としての輝かしい実績
薬師寺保栄被告は1968年生まれ、大分県出身(愛知県小牧市育ち)の元プロボクサーだ。1993年12月、世界初挑戦でWBC世界バンタム級王座を獲得すると、翌94年12月には団体内王座統一戦で当時暫定王者だった辰吉丈一郎氏(大阪帝拳)を判定で下し、注目を集めた。世代のライバルとして語られることの多い両者の対決は、当時のボクシング界を大いに盛り上げた一戦として知られている。薬師寺被告はその後も防衛を重ね、通算4度の防衛に成功。しかし1995年7月の5度目の防衛戦で判定負けを喫し、王座から陥落した。この試合を最後に現役を引退し、2007年4月に自身のジムをオープン、後進の指導にあたってきた。
6.「元世界王者」からジム経営者へ…現在の立場に大きな影響
現役時代は日本を代表する人気ボクサーとして活躍した薬師寺被告だが、引退後はジムのオーナー・会長として後進の育成に携わる立場に転じていた。今回の事件と処分は、まさにその「指導者」としての立場を直撃するものとなった。ライセンス停止期間中、薬師寺被告はクラブオーナーとしての活動が制限されることになり、ジムの運営体制にも一定の影響が及ぶとみられる。ボクシング界における信用は、選手個人の実績だけでなく、指導者としての倫理観によっても支えられているという観点から見れば、今回の処分はJBCが競技全体の信頼性を守るための措置だったと捉えることができるだろう。
7.今後はどうなる?9月の判決にも注目
刑事裁判の判決は2026年9月16日に言い渡される予定で、執行猶予が付くかどうかが焦点となる。一方でJBCによるライセンス停止は、刑事裁判の結果とは独立した競技団体としての処分であり、判決内容にかかわらず2027年2月12日まで効力を持つ。今後は、9月の判決結果に加えて、ライセンス停止期間が明けた後に薬師寺被告がどのような形でジム運営やボクシング界と関わっていくのかにも注目が集まりそうだ。
まとめ
- 薬師寺保栄被告は養子縁組届偽造事件で起訴内容を認め、判決は9月16日に予定されている
- JBCは8月13日付で、薬師寺被告のクラブオーナーライセンスを6カ月間(2027年2月12日まで)停止する処分を告示した
- JBCは今回の行為を私生活上の問題ではなく、選手を指導する立場としてプロボクシング界の権威と信用を著しく毀損するものと判断した
- 元WBC世界王者という輝かしい実績を持つ薬師寺被告が、今後どのように責任を果たしていくのかが焦点となる





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