2026年末に山場を迎える来年度の介護報酬改定。財務省は「介護サービスの利益率は他産業より高い」とするデータを示し、報酬の適正化を求めました。
訪問介護9.6%、訪問看護10.3%、通所介護6.2%、居宅介護支援6.2%という数字は、いずれも介護サービス全体の収支差率6.8%を上回り、その6.8%自体も中小企業平均の3.8%を上回ります。しかし、この数字だけを根拠に「介護業界全体が儲かっている」と判断するのは早計です。
実際の介護現場では今、利益をしっかり確保できる事業所と、人手不足や移動負担で経営が立ち行かない事業所への「二極化」が静かに進んでいます。本記事では、財務省提言の背景と、その裏にある介護業界の構造的な実態を整理します。
財務省が示した「利益率」の正体
財務省が提示の根拠としたのは、厚生労働省の経営概況調査です。資料の中心となっているグラフでは、2024年度における介護サービス全体の収支差率は6.8%。これは中小企業平均の3.8%を3ポイント上回る水準です。
さらに財務省は、サービス類型ごとの差にも言及しました。訪問看護10.3%、訪問介護9.6%、通所介護6.2%、居宅介護支援6.2%といった具体的な数字を示し、いずれも全体平均を上回っているとしています(こちらは補助金を含み特別損失を除く別の算定基準による参考値で、全体平均としては4.7%という数字も併記されています)。算定基準が異なる複数の数字が同じ資料に並んでいるため、報道によって「平均◯%」の引用が割れているのが実情ですが、いずれの基準でも「介護サービスは中小企業より利益率が高い」という財務省の主張の骨格は変わりません。
財務省がこのデータを持ち出した理由は、主に3つです。
- 現役世代が負担する介護保険料の上昇を防ぎたい
- 介護給付費が膨張し続けている現状を抑制したい
- 制度そのものの持続可能性を高めたい
つまり財務省の主張は「介護業界全体が儲けすぎている」というよりも、「利益率の高いサービス類型については、報酬を見直す余地がある」という、より絞り込んだ論点だといえます。
なぜ訪問介護の利益率は9.6%にも達するのか
ここで注目したいのが、財務省が特に問題視した「集合住宅併設・隣接型」の訪問介護です。
サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームなどに事業所を併設・隣接させているケースでは、ホームヘルパーは
- 車での移動がほぼ不要
- 利用者間の移動時間が極端に短い
- 1日に対応できる訪問件数を大きく増やせる
という効率性を持っています。同じ「訪問介護」という制度上の枠組みでも、地域に点在する利用者宅を一軒一軒回るビジネスモデルとは、収益構造がまったく異なるのです。財務省が新たな類型である「登録施設介護支援」(住宅型有料老人ホーム入居者向けのケアマネジメント)にも報酬適正化を求めているのは、この効率性の高さを踏まえた指摘だと考えられます。
「地域密着型」訪問介護が抱える厳しい現実
一方で、地方や郊外の住宅街を中心にサービスを提供する訪問介護事業所は、まったく異なる事情を抱えています。
ヘルパーは1件あたり30分程度の介護のために、車で何十キロも移動することも珍しくありません。移動時間そのものは介護報酬の算定対象にならないため、ガソリン代や人件費といったコストは事業所側が負担せざるを得ない構造になっています。
さらに深刻なのが人材不足です。ヘルパーの高齢化や採用難が重なり、「利用希望はあるのに人手が足りず受け入れられない」という事業所も増えています。利益率の数字だけを見れば黒字に見えても、実際には現場が限界に近いという地域は少なくありません。
介護業界に広がる「二極化」という構図
これらを整理すると、いまの介護業界には次のような構図が浮かび上がります。
利益を出しやすい事業所
- 都市部に立地し利用者が密集している
- 大規模法人による運営
- 集合住宅併設・隣接型のサービス
経営が苦しい事業所
- 地方や郊外で在宅中心にサービスを提供
- 小規模事業者が多い
- 慢性的な人材不足を抱えている
財務省が示した収支差率は、こうした両極の事業所をひとつの数字に均してしまったものとも言えます。だからこそ、利益率データだけを根拠に一律の報酬削減を行えば、すでに苦境にある地域の在宅介護サービスが撤退・縮小に追い込まれるリスクが高まります。
来年度の介護報酬改定で注目すべき4つの論点
年末に向けた議論では、以下のポイントが焦点になると見られます。
- 集合住宅型サービスの報酬見直し:効率性が高い分野への加算縮小が検討される可能性
- 「登録施設介護支援」の報酬水準:新類型の制度設計がどこまで踏み込まれるか
- 地域の訪問介護をどう維持するか:撤退が相次ぐ地域への支援策の有無
- 人材確保策との両立:報酬の見直しが処遇改善や賃上げの財源にどう影響するか
これらは単純な「上げる・下げる」の議論ではなく、サービス類型や地域特性に応じたきめ細かな制度設計が求められる論点です。
まとめ:数字の裏にある「現場の実情」を見極める
財務省が示した利益率データは、介護報酬改定の議論において重要な材料のひとつです。しかし、その数字の裏には、都市部の集合住宅併設型事業所と、地方の在宅中心の事業所との間にある大きな経営環境の差が隠れています。
今後の介護報酬改定では、「制度の持続可能性」を確保しつつ、地域で介護サービスを支え続けている現場が立ち行かなくなるような事態を避けることが重要です。利益率という一つの指標だけでなく、サービス類型ごとの実態を丁寧に見極めた制度設計が求められています。


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