元プロ野球選手の息子に詐欺容疑
プロ野球界でその名を轟かせた山崎武司氏。中日ドラゴンズ、オリックス・バファローズ、東北楽天ゴールデンイーグルスと渡り歩き、2009年にはシーズン27本塁打を放った「ミスター代打」として今もファンに愛される存在だ。
その長男である山崎大貴容疑者(29)が、2026年6月9日付で愛知県警中署に詐欺容疑で逮捕された。被害総額はおよそ7000万円に上るとみられ、警察は余罪を調べている。まず今回明らかになった容疑の核心から順を追って解説していく。
山崎大貴容疑者の逮捕容疑――何をしたのか
SNSを入口にした接触
2024年11月19日頃、山崎大貴容疑者は東京都中野区在住の会社役員・男性(65歳)にSNSの通話機能で接触した。
今回の事件の出発点はデジタルだ。面識のない相手への飛び込みではなく、男性とは知人を介して知り合ったという点が被害者の警戒心を下げる要因となったとみられる。知り合いの紹介という”お墨付き”があったからこそ、高額の時計を預けるという行動につながったと考えられる。
「海外オークションで高値売却」という甘い言葉
容疑者は「腕時計を預かれば海外オークションに出品し、高値で売却できる」と虚偽の説明をし、信頼を得た。男性からパテック・フィリップの高級腕時計1本(時価約685万円)を受け取った。
スイスの名門ブランド「パテック・フィリップ」は、ロレックスと並ぶ高級時計界の頂点に君臨するメーカーだ。一部モデルは数千万円から数億円で取引されるほどで、海外オークションで高値がつくというシナリオは、時計への知識がある人物ほど”あり得る話”として聞こえてしまう。そこに巧みな詐欺の罠があった。
質店で即換金――売却益は渡らなかった
腕時計を受け取ってから2〜3日後、山崎容疑者は名古屋市内の質店でその腕時計を約600万円で換金している。
預かった翌日ではなく、”間を置いた”わずか数日後の換金という動きに計画性がうかがえる。代金が支払われなかったことから男性が問い詰めると、容疑者は名古屋市内の質店で換金したと説明した。被害者が追及しなければ、そのまま泣き寝入りになっていた可能性もある。逮捕後の調べに対し、容疑を認めている。
なぜ「高級時計詐欺」は後を絶たないのか
高級時計市場の特殊性
ロレックスやパテック・フィリップは、株式や不動産と並ぶ「リアルアセット投資」として近年急速に注目を集めている。新品定価よりも中古市場価格の方が高くなる”プレミア現象”が常態化しており、海外オークションで高値がつくという話は、専門知識のある人には現実的に聞こえる。つまり、「それはあり得る」と感じさせやすい土台が、市場そのものに備わっているのだ。
「委託販売」という仕組みへの悪用
高級時計業界では、オーナーが業者に時計を預けて売却を委託する「委託販売」は広く行われている正規のビジネスモデルだ。問題はその仕組みを個人が悪用するケース。書面の契約もなく、実績の確認もせず、紹介者の顔だけを信じて現物を手渡すのは、どれほど高額な品でも危険が伴う。今回の事件はその典型例と言える。
SNS時代が生んだ”個人仲介”リスク
かつては業者経由が当たり前だった高額品の売買が、SNSの普及によって個人間でも成立するようになった。正規のプラットフォームを使えば利便性は高まるが、身元確認が不十分な相手との取引はリスクが高い。今回もSNSを使って被害者に近づくという手口で、警察は被害総額が約7000万円に上る可能性があるとみて捜査を進めている。被害は今回の1件にとどまらない可能性があるということだ。
高額時計の「預かり委託」詐欺を見抜くポイントとして、以下を覚えておきたい。
- 売却実績・会社登記・契約書の有無を必ず確認する
- 知人紹介であっても、現物を渡す前に本人確認を徹底する
- 「海外ルート」「特別なコネ」など曖昧な根拠には警戒する
- 高額品の委託は必ず書面で残し、コピーを手元に保管する
父・山崎武司氏が語った苦悩
「全く言葉にならない心境」
今回の事件で最も胸を打ったのが、父・山崎武司氏が代理人弁護士を通じて発表したコメントだ。
「この度は、息子大貴の件では、ご心配をおかけし、また関係者の方にはご迷惑をおかけすることになりかねず、心が痛みます。警察から、息子大貴が逮捕されたとの連絡をもらい、ただただ焦燥に駆られており、全く言葉にならない心境にあります」
言葉の選び方に感情の揺れが滲む。「焦燥」という言葉は、単なる驚きを超えた、どうにもできない親の無力感を表現しているように読める。
「昨年2月から行方が分からなかった」
コメントでさらに注目を集めたのが、親子の断絶を示す一節だ。
「息子大貴は、令和7年2月頃から行方が分からなくなっており、連絡もとれず、息子がどのような生活をしていたのかさえ全く把握していませんでした」
2025年2月から今回の逮捕(2026年6月)まで、実に1年以上にわたって親子の連絡が途絶えていたことになる。29歳の成人した息子の行動を親がすべて把握できるわけではないが、その間に複数の被害が発生していたとすれば、当人にとっても後悔は尽きないはずだ。
「親の責任は免れないが」という覚悟
「親の育て方や躾が悪いとの批判は免れないとは思いますが、大貴は既に29歳となっており、親としても全く把握していない息子についてコメントすることができない心情をご理解下さい。今後の警察の捜査については、親として、出来る限りの協力を行って参ります。過度な報道にはご配慮下さいますよう切にお願いします」
批判を受け止めながら、同時に「29歳の成人」という線引きを丁寧に示したコメントは、感情的ではなく誠実さが伝わると多くの人に受け取られた。なお、山崎氏は12日の日本ハム-中日戦を解説予定だったが、中継局の北海道文化放送(UHB)は岩瀬仁紀氏に変更となることが発表されている。
今後の捜査の焦点
余罪の規模――7000万円の可能性
今回逮捕の根拠は685万円分の1件だが、警察は被害の総額がおよそ7000万円に上るとみて余罪を調べている。単純計算でも同様の被害が複数存在することになる。知人ネットワークを使った勧誘だとすれば、被害者はまだ名乗り出ていない可能性もある。
詐欺罪の適用と今後の展開
容疑を認めている点は裁判での争点を絞る要素となりうるが、余罪の数や被害総額によっては量刑に大きく影響する。「住所・職業不詳」という身分は逃亡リスクとして裁判所が勾留を継続しやすい要素でもあり、捜査は長期化する可能性がある。
まとめ
山崎大貴容疑者は、SNSで接触した被害者に「海外オークションで高値で売れる」と持ちかけ、パテック・フィリップの高級腕時計(時価約685万円)を詐取した疑いで逮捕された。受け取った翌数日後には名古屋市内の質店で約600万円に換金しており、最初から売却益を渡す意思がなかったとみられる。
警察は同様の手口による被害が複数あり、総額が約7000万円に上る可能性があるとして余罪を調査中だ。
父・山崎武司氏は代理人を通じ「全く言葉にならない心境」と誠実なコメントを発表。2025年2月以降、息子と連絡が取れていなかったことも明かし、親としての苦悩をにじませた。
今後の捜査で余罪の全容と被害実態が明らかになることが注目される。高級時計の「委託販売」を装った詐欺は、知人紹介という信頼の構造を悪用するケースが多い。どれほど信頼できる筋からの紹介であっても、高額品を預ける際は書面と本人確認を徹底することが、自衛の第一歩だ。




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