リング上で無敵を誇ったK-1の絶対王者が、実は見えない敵と壮絶な戦いを続けていた。2022年6月、那須川天心との「世紀の一戦」の8日後、武尊は世間を驚かせる告白をした。
数年前から鬱病とパニック障害に苦しんでいたという事実である。
「最強」と称された男の心の内には、想像を絶する苦悩が渦巻いていた。
武尊が鬱病を発症した時期、症状を抱えながらも試合に出場し続けた壮絶な日々、そして薬に頼らざるを得なかった当時の状況と現在の回復状況についてシラベテミタ!
武尊が鬱病を発症した時期
数年前から始まっていた心の異変
武尊が鬱病とパニック障害と診断されたのは、2022年の休養発表よりも数年前のことだった。2022年6月27日の記者会見で、武尊は「数年前に精神科でパニック障害とうつ病と診断されていた」と明かしている。
正確な発症時期は明言されていないものの、2018年頃から徐々に症状が表れ始めていたと推測される。武尊自身が「知らず知らずのうちに自分の心が壊れているのを感じていた」と語っているように、症状は徐々に悪化していった。
「負けることへの恐怖」が心を蝕んだ
武尊を追い詰めた最大の要因は、「負けることへの恐怖」だった。会見では「負けることが怖くて、この10年間、ずっと恐怖と戦っていた」と告白。試合の時は笑顔を見せられても、それ以外の時間は苦しさと恐怖しかなかったという。
K-1のエースとして、常に勝ち続けなければならないプレッシャー。ファンの期待、メディアの注目、そして自分自身が作り上げた「武尊」というイメージ。これらすべてが彼の心を圧迫し続けた。
鬱病を抱えながらも試合に出場した日々
病気と闘いながらリングに上がり続けた現実
驚くべきことに、武尊は鬱病とパニック障害の診断を受けた後も、試合に出場し続けていた。一般的には休養が必要とされる状態でありながら、彼はK-1王者としての責任を果たすため、リングに立ち続けたのである。
会見では「試合前は夜中に病院に運ばれたりしたこともあった」と明かしている。試合前という最も精神的に安定していなければならない時期に、パニック発作に襲われ救急搬送されるほどの状態だったのだ。
閉鎖空間で襲ってくるパニック発作
武尊のパニック発作は特に閉鎖空間で起こりやすかった。エレベーターや電車など、逃げ場のない空間に身を置くと、突然の動悸、冷や汗、息苦しさに襲われた。格闘家という職業柄、こうした「弱さ」を見せることができず、一人で症状に耐える日々が続いた。
試合会場への移動中、会見前の控室、そしてリング上でさえ、いつ発作が起こるかという不安が常につきまとっていた。それでも武尊は試合を続けた。ファンの期待に応えるため、そしてK-1のエースとしての使命を果たすために。
薬がないと不安になった――武尊が語る依存のエピソード
「薬で抑えている状態だった」という告白
2022年12月、武尊は自身が展開するCBD商品のイベントで、治療の詳細について語った。「精神疾患を薬でどうにか抑えている状態だった。根本的に治っているわけではなかった」と明かし、薬物療法に頼らざるを得なかった当時の状況を率直に語っている。
4年前には「ほぼ寝られていない時期があった」といい、睡眠障害も併発していた。睡眠が取れなければ心身のバランスはさらに崩れ、鬱症状は悪化の一途をたどる。こうした悪循環の中で、武尊は薬に依存せざるを得ない状態に陥っていた。
薬を飲んで初めて気づいた「普通の状態」
自著『ユメノチカラ』の中で、武尊は薬物治療を受けてからの心境の変化について詳しく語っている。「薬を飲んで気持ちが少しずつ落ち着いてきたことで、『ああ、これが普通の状態なんだ』と、本来の自分の状態に気づくことができた」
この記述からは、武尊が長期間にわたって異常な精神状態に置かれていたことが分かる。異常が日常となっていた彼にとって、薬によって訪れた「普通の状態」は新鮮な驚きだった。同時に、それは自分がいかに追い詰められていたかを認識する瞬間でもあった。
「死にたい」と思った過去
武尊は過去に「死んでもいいと思った」時期があったことも告白している。しかし、薬物治療を受けてから「あれ以来、僕は一度も『死にたい』と思ったことはない」と語る。
薬が武尊の命を救ったといっても過言ではない。適切な治療を受けることで、極限まで追い詰められていた精神状態から脱出できたのである。
現在の武尊――鬱病は改善しているのか
2024年の対談で明かした「回復と共存」
2024年11月、精神科医の岡琢哉先生との対談で、武尊は現在の状態について語っている。「体調は安定していると思います。完治とまではいきませんが、今では病気との付き合い方もうまくなって、自分で体調やストレスへ対応できるようになりました」
この発言から、武尊の鬱病は完全に治癒したわけではないが、確実に改善傾向にあることが分かる。重要なのは「病気との付き合い方」を学んだという点だ。完全な治癒を目指すのではなく、症状をコントロールしながら共存する道を選んだのである。
CBDとの出会いが変えた治療アプローチ
武尊の回復に大きく寄与したのが、CBDとの出会いだった。アメリカで「CBDだけで普通の生活ができるようになっていた人」に出会ったことをきっかけに、CBDについて勉強を始めた。
「ここ1、2年はCBDを使ってオンオフを切り替えている」と語るように、武尊は従来の薬物療法からCBDを活用した治療法へとシフトしている。これにより、薬への依存度を下げながら症状をコントロールできるようになった。
格闘技への復帰と新たな挑戦
2022年に無期限休養を発表した武尊だが、休養は「現時点では復帰を前提としたもの」だった。実際、2023年にはONEチャンピオンシップとの契約を発表し、新たなステージへと歩み始めている。
休養会見では「最後勝つ姿を見せてから終わりたい」と語り、再びリングで輝く意志を示した。鬱病との闘いを経験したことで、武尊は以前とは違う強さを手に入れたのかもしれない。
「不安定な心を飼いならす」技術
武尊は現在も「昔ほど重たくはないけれど」メンタルの不調は続いていると認めている。しかし、「少しずつでも、不安定になりがちな心を自分で飼いならすことができるようになっていた」と語る。
これは鬱病患者にとって重要な示唆である。完全な治癒を目指すのではなく、症状と上手に付き合いながら生活する術を身につけること。武尊の経験は、同じ悩みを抱える多くの人々に希望を与えている。
武尊が伝えたいメッセージ
「弱さを見せる強さ」
武尊が、自らの「弱さ」を公表したことの意義は大きい。武尊の告白は「強そうに見える人でも、心が壊れそうになることがある」という事実を社会に広く知らしめた。
自身の経験をテレビ番組『ザ!世界仰天ニュース』でも語るなど、武尊は積極的に情報発信を続けている。同じ悩みを持つ人々への理解を深め、一人でも多くの人が適切な治療を受けられるようにという願いが込められている。
「現状を変える方法は誰にだってある」
武尊は自著の中で「現状を変える方法は、誰にだってまだまだある」というメッセージを発信している。どんなに絶望的な状況でも、必ず道は開けるという希望を示しているのだ。
まとめ
K-1元王者・武尊が経験した鬱病との闘いは、多くの教訓を与えている。数年前から症状を抱えながらも試合に出場し続けた壮絶な日々、薬なしでは日常生活を送ることさえ困難だった時期、そして現在の回復と共存の道。
武尊の体験は、メンタルヘルスの問題が誰にでも起こりうること、適切な治療を受けることの重要性、そして完全な治癒ではなく「病気との付き合い方」を学ぶことの意義を教えてくれる。
2024年現在、武尊は完治には至っていないものの、確実に回復への道を歩んでいる。リングへの復帰を見据えながら、新たな強さを身につけた彼の今後の活躍が期待される。
最強の格闘家が見せた真の強さ――それは弱さを認め、助けを求め、そして立ち上がり続ける勇気なのかもしれない。


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