子どもの高校進学を控えた家庭にとって、授業料は大きな負担です。しかし、2025年から段階的に実施されている「高校授業料無償化」制度により、私立高校も含めて教育費の負担が大幅に軽減されています。この記事では、私立高校無償化の実施時期、所得制限の有無、そして制度をめぐる不公平感について詳しく解説します。
私立高校無償化はいつから実施される?
2025年4月:第一段階の無償化がスタート
2025年4月から、所得制限が撤廃され、全ての世帯に対して国公立・私立を問わず年間11万8,800円が支給されるようになりました。これは国公立高校の年間授業料に相当する金額です。
これまでは年収約910万円以上の世帯には支援がありませんでしたが、今回の改正により、高所得世帯も含めて全ての家庭が基礎的な支援を受けられるようになりました。
2026年4月:私立高校の本格無償化へ
2026年度からは、私立高校を対象とした就学支援金が所得制限なしで支給され、金額も年間45万7,000円に引き上げられる予定です。この金額は私立高校の全国平均授業料に相当します。
つまり、私立高校の実質完全無償化は2026年4月からということになります。
所得制限は本当になくなるのか?
段階的な所得制限撤廃
従来の制度では、私立高校の加算支援(年間39万6,000円)は年収約590万円未満の世帯のみが対象でした。2025年度現在、私立高校の就学支援金39万6,000円については世帯年収約590万円未満の所得制限がありますが、来年度には所得制限を撤廃し、全ての世帯が受給できるようにする方向で検討が進められています。
2025年度の現状
- 基礎支援(11万8,800円):所得制限なし(全世帯対象)
- 私立加算(39万6,000円):年収約590万円未満の世帯のみ対象
- 合計最大:年間51万4,800円(低所得世帯)
2026年度以降の予定
- 基礎支援(11万8,800円):所得制限なし
- 私立加算(約33万8,200円):所得制限なし
- 合計:年間45万7,000円(全世帯一律)
先進的な自治体の取り組み
東京都の事例
東京都では2024年度から所得制限を撤廃し、国の支援と合わせて都内私立高校平均授業料相当(全日制・定時制課程は年額49万円)を上限に助成しています。東京都は全国に先駆けて完全無償化を実現した自治体として注目されています。
大阪府の取り組み
大阪府では、2024年度から段階的に所得制限をなくし、2026年に全学年の完全無償化を達成する目標を掲げています。興味深いのは、大阪府では授業料が支援上限を超えた場合、保護者ではなく学校が超過分を負担する仕組みになっている点です。
無償化制度の「落とし穴」に注意
落とし穴1:授業料以外の費用は対象外
無償化されるのはあくまで「授業料」のみです。実際には以下のような費用が別途必要になります。
- 入学金:私立高校では平均20万円前後
- 施設設備費:年間10万円〜30万円程度
- 教材費・修学旅行費:年間10万円〜20万円
- 通学費:距離によって月1万円〜3万円
- 制服・体操服等:初年度10万円前後
私立高校によっては、授業料以外の費用が年間50万円以上かかるケースもあります。
落とし穴2:学校によって実質負担額が異なる
支援金の上限を超える授業料の学校の場合、差額は家庭が負担します。また、上限より安価な授業料の学校の場合、差額が家庭に支払われることはありません。
例えば、都内の有名私立高校では授業料が年間60万円を超えるところもあり、その場合は支援上限額との差額を保護者が負担する必要があります。
落とし穴3:自治体による支援の格差
都道府県によって独自の支援制度があり、住んでいる地域によって実質的な負担額が大きく異なります。私立高校無償化の補助内容については都道府県によってそれぞれ異なります。自分の居住地の制度をしっかり確認することが重要です。
制度をめぐる不公平感の実態
高所得世帯からの声
無償化により、これまで所得制限で支援を受けられなかった高所得世帯も恩恵を受けられるようになりました。しかし、一方で「自分たちの納めた税金で他の世帯が無償で教育を受けられるのは不公平」という声も上がっています。
公立高校への影響
授業料が実質無償化になれば経済的な負担が解消され、選択肢が広がります。一方、私立高校への注目が高まることで公立高校の志願者が減少する状況も懸念され、少子化による生徒数の減少が起きている地域では、公立高校の存続が課題となっています。
経済的理由で公立を選んでいた家庭が私立を選択するようになり、公立高校の定員割れや統廃合が進む可能性が指摘されています。
中間所得層の複雑な心境
年収700万円〜900万円程度の中間所得層からは複雑な声も聞かれます。これまでギリギリで支援対象外だった層が新たに支援を受けられるようになった一方で、「もっと早く実施してほしかった」「上の子のときには支援がなかった」という不満もあるのです。
公平な制度設計に向けて
「所得制限なし」の意義
所得制限を設けない制度設計には、以下のような利点があります。
- 事務手続きの簡素化:所得審査が不要になり、申請手続きが簡単になる
- 分断の回避:所得による線引きがなくなり、社会的分断を避けられる
- 就労意欲への影響軽減:「働いたら支援が受けられなくなる」という心配がなくなる
残る課題
完全に公平な制度を作ることは困難ですが、以下のような課題には今後も議論が必要でしょう。
- 地域間格差の是正
- 授業料以外の教育費への支援拡大
- 高校以降の高等教育への支援連携
- 私立学校の授業料設定の透明性確保
まとめ:制度を正しく理解して活用を
私立高校無償化は2025年4月から段階的に実施され、2026年4月には所得制限なしの本格無償化が予定されています。全ての世帯が年間45万7,000円程度の支援を受けられるようになるのは画期的です。
ただし、「無償化」という言葉のイメージとは異なり、授業料以外の費用は自己負担であること、学校によって実質負担額が異なることに注意が必要です。また、居住する自治体によって独自の上乗せ支援がある場合もあるため、お住まいの地域の制度をしっかり確認しましょう。
制度をめぐる不公平感については、完全に解消することは難しいものの、所得制限を撤廃することで「線引き」による不満は大きく軽減されるはずです。大切なのは、子どもたちが経済的理由で進学を諦めることなく、自分に合った教育を選べる社会を実現することです。
高校進学を控えたご家庭は、最新の情報を文部科学省や自治体のウェブサイトで確認し、学校説明会で具体的な費用について質問するなど、早めの準備を心がけましょう。


コメント