はじめに|なぜ今、窓口時間の見直しなのか
兵庫県尼崎市が2026年1月5日から、本庁舎や各サービスセンターの窓口受付時間を30分短縮することを発表しました。現在の午前9時から午後5時30分までの受付時間が、午後5時までに変更されます。「市民サービスの低下では?」と心配される方もいるかもしれません。しかし、この決断には働き方改革とサービス向上を両立させる明確な戦略が隠されています。
窓口受付時間短縮の3つの理由
1. 職員の働き方改善|時間外勤務の常態化を解消
松本市長が説明した最大の理由は、職員の働き方改善です。窓口業務が午後5時30分まで続くと、その後の書類整理や申請処理により、時間外勤務が前提となる構造的な問題がありました。
多くの自治体職員が抱える悩みとして、受付終了後の事務作業が挙げられます。市民と直接対応する窓口業務は定刻まで続きますが、その日の申請書類の処理、データ入力、書類の確認作業などは受付終了後に行わざるを得ません。結果として、毎日のように残業が発生し、職員の負担は増大していました。
2. 職員間の情報共有不足|チーム力強化の必要性
勤務時間内に職員同士が情報を共有する時間が十分に取れていない実態も、短縮の背景にあります。行政サービスは複雑化しており、法改正や制度変更への対応、市民への正確な情報提供には、職員間の綿密なコミュニケーションが不可欠です。
現状では、窓口対応に追われて「聞きたいことがあるのに相談できない」「ミーティングの時間が取れない」という状況が慢性化していました。短縮で生まれる30分を活用し、業務終了後のチームミーティングや情報共有の時間を確保することで、サービス品質の向上を目指します。
3. 利用実態とオンライン化の進展|データに基づく判断
午後5時以降の窓口利用者が少ないという利用実態も、重要な判断材料となりました。加えて、オンライン申請や各種電子サービスの普及により、窓口に来庁しなくても手続きできる環境が整ってきています。
自治体DXの推進により、住民票の写しや印鑑登録証明書などはコンビニエンスストアでも取得可能です。また、子育て関連の申請や各種届出もオンラインで完結できるケースが増えています。市民の行動パターンが変化する中、窓口サービスのあり方も時代に合わせて進化する必要があるのです。
窓口受付時間短縮のメリット
職員側のメリット
業務効率の向上
30分の短縮により、受付終了後すぐにチームミーティングを開催できます。その日の課題や市民からの問い合わせ内容を共有し、翌日以降の業務改善につなげられます。情報共有が円滑になることで、職員全体のスキルアップも期待できます。
ワークライフバランスの実現
時間外勤務の削減は、職員の心身の健康維持に直結します。定時退庁できる環境が整えば、家庭生活との両立もしやすくなり、優秀な人材の確保・定着にもつながります。働きやすい職場環境は、結果的に市民サービスの質の向上をもたらします。
専門性の向上
業務後の研修時間や自己啓発の時間が確保しやすくなります。複雑化する行政サービスに対応するためには、職員の継続的なスキルアップが欠かせません。
市民側のメリット
サービス品質の向上
職員が十分な情報共有を行うことで、窓口対応の質が向上します。「前回と説明が違う」「担当者によって答えが異なる」といった問題が減少し、より正確で統一された案内が可能になります。
オンラインサービスの充実加速
窓口業務の効率化により、浮いたリソースをデジタル化の推進に振り向けられます。24時間365日利用可能なオンラインサービスが充実すれば、仕事で忙しい人にとってはむしろ利便性が高まります。
長期的な行政サービスの持続可能性
職員の働き方改善は、優秀な人材の確保と離職防止につながります。質の高い職員が定着することで、長期的に見れば市民が受けられるサービスの水準が維持・向上します。
窓口受付時間短縮のデメリットと対策
主なデメリット
仕事帰りの利用が困難に
午後5時以降に来庁を予定していた勤労者にとっては、手続きのハードルが上がります。特に平日日中の来庁が難しい会社員や自営業者への影響が懸念されます。
引越しシーズンの混雑激化
3月から4月の繁忙期には、短縮された時間帯に利用者が集中し、待ち時間の増加や窓口の混雑が予想されます。
高齢者や情報弱者への影響
オンラインサービスに不慣れな高齢者や、インターネット環境がない方にとっては、窓口が唯一の手段である場合もあります。
尼崎市が取るべき対策案
時間外窓口や休日開庁の拡充
平日夕方の利用が困難な市民のために、月1回程度の休日開庁や、特定曜日の延長窓口を設置することで、利便性の低下を補えます。
オンライン申請の更なる拡充と周知
スマートフォンで簡単に手続きできる環境を整備し、使い方のサポート体制を強化することが重要です。サービスセンターでのオンライン申請支援窓口の設置も有効でしょう。
予約制の導入と混雑予測の公開
来庁予約システムを導入すれば、市民は待ち時間を削減でき、窓口側も人員配置を最適化できます。尼崎市はすでに混雑予測を公開していますが、さらに精度を高め、予約機能を追加することで利便性が向上します。
高齢者向けのサポート体制
デジタルに不慣れな方のために、窓口でのオンライン申請補助や、地域サポーターによる申請支援など、きめ細かい対応が求められます。
他自治体の事例から学ぶ|窓口改革の成功ポイント
全国の自治体では、窓口サービスの見直しが進んでいます。千葉県市川市では、主要な証明書をコンビニ交付に移行することで、窓口混雑を大幅に緩和しました。東京都渋谷区では、LINEを活用した各種申請受付により、若年層の利便性が飛躍的に向上しています。
成功している自治体に共通するのは、「窓口縮小だけではなく、代替サービスの充実とセット」という点です。尼崎市も、単に時間を短縮するだけでなく、その分のリソースを新しいサービス創出に振り向けることが成功の鍵となるでしょう。
市民と行政がともに成長する改革へ
尼崎市の窓口受付時間短縮は、単なる行政の都合ではなく、職員の働き方改善を通じてサービス品質を高めるという、前向きな改革です。しかし、その効果を最大化するには、市民への丁寧な説明と、利便性を補完する新しいサービスの拡充が不可欠です。
デジタル化が進む現代において、行政サービスのあり方も変革が求められています。午後5時以降に窓口を利用していた市民には一時的な不便が生じるかもしれませんが、オンラインサービスの充実や休日開庁の拡大など、多様な選択肢を提供することで、むしろ利便性が高まる可能性もあります。
重要なのは、この改革を「市民と行政がともに成長する機会」と捉えることです。職員が働きやすい環境で力を発揮できれば、より質の高い市民サービスが実現します。尼崎市の取り組みが、市民の理解と協力のもと、成功事例として他自治体のモデルとなることを期待します。
2026年1月からの新体制に向けて、市民一人ひとりが行政サービスの利用方法を見直し、自分に合った手続き方法を見つける良い機会としてはいかがでしょうか。


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