セキュリティから選手へ
2025年9月27日、東京・アリーナ立川立飛で開催されたブレイキングダウン17。その第3試合で格闘技界に新たなスターが誕生した。
賢民──これまで数々の乱闘を止めてきた「最強セキュリティー」として裏方を務めていた男が、一夜にしてブレイキングダウンの新たな顔になった。
「ちょっと1個言いたいんだけど、毎回くだらない揉め合いするのはいいんだけど、セキュリティー入っても続けてるやついるじゃん。手を出さないからって舐められてるのかなって」
オーディションで放ったこの言葉に対してひな壇に座る選手は黙るしかなかった。カメラに映し出されたたひな壇選手は明らかに賢民に対してビビっていた。
普段はオーディションに来ている選手に対して挑発的な発言をする大阪喧嘩自慢のリキの表情に注目してほしい。賢民に対して「こいつはホンモノ」であるというのが分かった瞬間でもあった。
地下格闘技界で築き上げた無敗の実績
賢民の真の強さは、地下格闘技界での実績が証明している。彼は「益荒男」という地下格闘技大会において、キックルールとMMAルールの両方で王座に君臨する二冠王者。この事実だけでも、充分すぎるほど強さが分かる。
地下格闘技の世界は、プロの表舞台とは異なり、生々しい実戦能力が問われる場所だ。ルールの緩さ、予測不可能な対戦相手、そして容赦ない攻防。そんな過酷な環境で王座を守り続けてきた賢民は、2025年3月にプロデビューを果たし、見事1ラウンドKO勝利を収めている。さらに同年6月の益荒男での防衛戦でも勝利を重ね、その無敗記録を更に塗り替えた。
朝倉未来を驚嘆させたオーディションの衝撃
ブレイキングダウン17のオーディションでセキュリティーのTシャツを身にまとい登場した賢民を見た朝倉未来は、まず彼のルックスとスター性に注目した。
「華があるんで育てたい」
格闘技プロモーターとして数多くの選手を見てきた朝倉未来の目は、賢民の中に特別な何かを見出していた。そして実際のスパーリングが始まると、その直感が正しかったことが証明されることになる。
相手は地下格闘技界の現役チャンピオンであるLEO。実力者同士の対決に会場は緊張感に包まれた。しかし、その緊張は一瞬で弾け飛ぶことになる。賢民が放った右カウンターパンチがLEOの顔面にクリーンヒット。地下格王者が前のめりに崩れ落ちる様は、まさに衝撃的なワンパンKOだった。
会場は騒然となり、朝倉未来も思わず「華があるね」と再び評価を口にした。この瞬間、地下格闘技2冠王者が、ブレイキングダウンの次世代を担うスター候補へと昇格した瞬間だった。
ブレイキングダウン17で魅せた圧倒的な強さ
ブレイキングダウンの本戦での賢民の相手はヤンバル太陽。太陽は沖縄喧嘩自慢出身で、ブレイキングダウン16と16.5で連勝中の勢いのある選手だった。MMAルールで行われた1分×3ラウンドの戦いは、賢民の格闘技センスと冷静さを存分に示す舞台となった。
第1ラウンド、太陽がゴングと同時にダッシュで飛びかかる。しかし賢民は冷静にこれを受け止め、逆に太陽をケージに押し込んだ。組み合いの中から繰り出される顔面への膝蹴りが太陽の意識を一瞬奪う。その隙を逃さず投げを決め、トップポジションからパウンドを連打。
第2ラウンド、再び突進してくる太陽に対し、賢民はカウンターのパンチで応戦。太陽が失速すると、首相撲から連続の膝蹴りを顔面に叩き込む。さらにパンチの連打でたたみかけ、最後は再び膝蹴りで完全にフィニッシュ。レフェリーが試合を止めた時、会場は賢民の圧倒的な強さに沸き立った。
膠着しやすいとされるMMAルール、それも1ラウンド1分でのブレイキングダウンルールで、明確なフィニッシュを見せるのは、地下格闘技王者の枠を超えていた。
将来はRIZINやUFCで活躍する選手になるであろうと期待してしまうほど、賢民は強さとスター性を兼ね備えていた。
朝倉未来が認めるスター性
試合後、朝倉未来は賢民について次のように語った。
「いいっすねぇ~、ちゃんとMMAできて、打撃もできる。次はメインの方にいくんじゃないですか」
この評価は、試合に勝ったことへの賞賛ではない。朝倉未来が見出したのは、賢民が持つ総合的なスター性だった。
まず、そのルックスと雰囲気。格闘技選手として人を惹きつける華がある。次に、確かな実力。打撃とグラップリングの両方を高いレベルでこなせる技術力は、現代のMMAにおいて必須の要素。そして最も重要なのが、1分ルールでも判定に行かない明確なフィニッシュ。
ブレイキングダウンは1分という短い時間で勝負を決める大会。その制約の中で確実に相手を仕留められる賢民は貴重であり、賢民はまさにそれを体現している。
さらに、セキュリティーとしての経験から生まれる独特のキャラクター性も、ファンを惹きつける要素となっている。
朝倉未来は格闘家としてだけでなく、プロモーターとして数多くのスターを発掘してきた。その彼が「華がある」と繰り返し評価するということは、賢民が持つポテンシャルの高さを物語っている。
賢民の強さを支える技術的要素
賢民の強さは、単なる身体能力や喧嘩の経験だけから生まれているわけではない。その背景には、計算された技術と戦略がある。
まず注目すべきは、彼のカウンター能力だ。LEO戦でのワンパンKO、太陽戦での冷静なカウンターパンチ。これらは相手の動きを読み、最適なタイミングで正確な一撃を放つ高度な技術の産物である。
次に、MMAにおける総合力。打撃からテイクダウン、グラウンドでのパウンドまで、シームレスに技術を連携させる能力は、長年のMMAトレーニングなくしては身につかない。益荒男でMMA王座を獲得した経験が、基盤となっている。
さらに、首相撲からの膝蹴り。これは単純な技術に見えて、実は相手の防御を崩し、確実にダメージを与えるための高度な戦術。賢民はこの技を太陽戦で効果的に使用し、完璧なフィニッシュを決めている。
そして何より重要なのが、試合中の冷静さだ。相手が激しく攻めてきても動じず、自分のペースで試合を組み立てる精神力。これは実戦経験の豊富さと、どんな状況でも勝つという自信から生まれている。
ブレイキングダウンからRIZINへ
ブレイキングダウン17で鮮烈なKOデビューを飾った賢民は、試合後のマイクで自信に満ちた言葉を残した。
「まああの見てもらった通り、俺めちゃくちゃ強いんで、正直ブレイキングダウンじゃ敵いないんで、RIZINとか海外の奴らとの、プロの奴ら俺全員殺せると思ってるんで。まああの、1分の殴り合い楽しかったっすねとりあえず。」
朝倉未来が予測したように、次回以降の大会ではメインカードへの昇格も十分に考えられる。
ブレイキングダウンという舞台は、これまで多くの選手を発掘してブレイキングダウンからRIZINのリングに上がった選手もいる。
ブレイキングダウン17は、賢民にとって始まりに過ぎない。次は国内最高峰の格闘技団体であるRIZIN。
近いうちにRIZINで賢民が闘う姿を見れるかもしれない。


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