なぜ20代・30代の自己破産が止まらないのか
近年、若年層における自己破産の増加が深刻な社会問題となっている。スマートフォンひとつで簡単に借り入れができる時代。わずか数分の審査で数十万円が手に入る便利さの裏側で、返済不能に陥る若者が後を絶ちません。
「ちょっとだけ借りるつもりだった」「すぐ返せると思った」——そんな軽い気持ちが、人生を大きく狂わせる借金地獄の入り口になっているのです。
総量規制とは?その本来の目的
2010年に施行された総量規制は、過剰な貸付を防ぐために導入された法律です。具体的には、年収の3分の1を超える借り入れを原則禁止するというルール。消費者金融やクレジットカードのキャッシング枠が対象となります。
この規制の目的は明確でした。返済能力を超えた借り入れによる多重債務者を減らし、自己破産を防ぐこと。しかし導入から15年近くが経過した今、若者の自己破産は増加傾向にある。
総量規制の対象外となる抜け穴
実は総量規制には大きな抜け穴が存在します:
- 銀行カードローンは総量規制の対象外
- クレジットカードのショッピング枠は規制対象外
- 事業性資金や不動産ローンも除外
- おまとめローンなど一定の条件下では例外あり
特に問題なのが銀行カードローンです。総量規制を逃れる形で、年収の3分の1を超える貸付も可能。審査基準は各銀行に委ねられており、実質的に規制の網をすり抜けているケースが少なくありません。
デジタル時代の「借りやすさ」が生む危険性
スマホ完結型ローンの普及
現代の借金は驚くほど手軽です。店舗に行く必要もなく、対面での審査もない。スマートフォンのアプリで本人確認書類を撮影し、送信すれば即日融資。この手軽さが、借金への心理的ハードルを劇的に下げています。
- 24時間365日、いつでも申し込み可能
- 最短30分で審査完了
- コンビニATMですぐに現金化
- 家族にも知られずに借り入れ
YouTubeの広告でもスマホで簡単に借りれる動画が流れます。有名YouTuberが簡単に借りれるという動画広告に出ることでお金を借りることに対するハードルが一気に下がります。
後払い決済サービスの普及
クレジットカードを持たない若者層に広がっているのが、後払い決済サービスです。「今買って、来月払う」というシンプルな仕組みですが、これも実質的な借金。複数のサービスを併用すれば、気づかぬうちに支払い総額が膨れ上がります。
分割手数料が無料の期間内に完済できればよいのですが、延滞すれば高額な遅延損害金が発生。この仕組みを正確に理解せずに利用している若者が多いのが現状です。
若者が借金地獄に陥る5つのパターン
1. 生活費の補填から始まる悪循環
一人暮らしの生活費が足りず、「今月だけ」と借りたお金。しかし翌月は返済分だけ生活費が減り、また借りる。この繰り返しで借入額は雪だるま式に増えていきます。
2. ギャンブルや投資での損失補填
オンラインカジノや暗号資産投資で損失を出し、取り戻そうとさらに借金。損失を借金で補填する行為は、確実に破綻への道を歩むことになります。
3. 奨学金返済との二重苦
奨学金の返済が始まる20代半ば。その返済負担が重く、生活費が足りずに消費者金融を利用。奨学金という借金がすでにある状態で、さらに借金を重ねる危険なパターンです。
4. SNSで見た「理想の生活」への憧れ
SNSで目にする華やかな生活に憧れ、身の丈に合わない消費を続ける。旅行、外食、ブランド品——見栄のための支出を借金で賄えば、返済は困難になります。
5. 「借金で借金を返す」多重債務
最も深刻なのがこのパターン。A社の返済のためにB社から借りる。そしてB社の返済のためにC社から…。利息だけで月々数万円という状況に陥り、元本は一向に減りません。
総量規制が効果を発揮できない理由
規制の穴を突いた貸付の実態
銀行カードローンが総量規制の対象外であることを利用し、過剰な貸付が行われているケースがあります。自主規制として年収の2分の1や3分の1を目安にする銀行もありますが、法的拘束力はありません。
クレジットカードのリボ払いの罠
ショッピング枠は総量規制の対象外。リボ払いを利用すれば、年収の3分の1を超える債務も簡単に作れてしまいます。しかも金利は年15%前後と高く、最低返済額では元本がほとんど減らない仕組みです。
収入証明書の提出義務が緩い
50万円以下の借り入れでは収入証明書の提出が不要なケースも多く、自己申告の年収で審査が通ってしまいます。複数社から少額ずつ借りれば、総借入額が年収の3分の1を超えても表面化しにくいのです。
借金地獄から抜け出すための具体的対策
早期の相談が何より重要
返済が苦しくなったら、まず専門家に相談することが重要です。
- 法テラス(日本司法支援センター):無料法律相談
- 日本貸金業協会:貸付自粛制度の利用
- 全国銀行協会:カードローン相談・苦情窓口
- 消費生活センター:188(いやや)で繋がる
恥ずかしさや怖さで相談を先延ばしにすると、借金状況は悪化するばかり。借金問題は早ければ早いほど、解決の選択肢は広がります。
債務整理という選択肢
どうしても返済が困難な場合、債務整理を検討すべきです。
任意整理:利息をカットして元本のみを3〜5年で返済 個人再生:借金を大幅に減額(最大10分の1)して返済 自己破産:借金をゼロにする(ただし一定の財産は失う)
いずれも信用情報に記録が残りますが、人生を立て直すための正当な法的手段です。
収支の見える化と家計管理
借金を繰り返さないためには、収支管理が不可欠です。
- 家計簿アプリで支出を「見える化」
- 固定費(通信費、サブスク)の見直し
- 先取り貯蓄の習慣化
- クレジットカードは1枚に絞る
小さな節約の積み重ねが、借金体質からの脱却につながります。
社会全体で考えるべき金融リテラシー教育
若者の自己破産増加は、個人の問題だけではありません。学校教育において金融リテラシー、特に借金のリスクについて学ぶ機会がないです。
「お金を借りる」という行為の重さ、金利の仕組み、複利計算の恐ろしさ——これらを実感として理解できないまま社会に出る若者が大半です。
高校・大学での実践的な金融教育の充実させることも必要でしょう。
総量規制強化と教育の両輪が必要
総量規制は導入時の理念は正しかったものの、対象外の抜け穴や執行の甘さにより、十分に機能していない現実があります。銀行カードローンの総量規制対象化、後払い決済サービスの規制強化など、時代に合わせた法整備が求められます。
同時に、若者自身が「借金は人生を狂わせる可能性がある」という認識を持つことが何より大切です。安易な借り入れの先に待っているのは、長く苦しい返済生活。その現実を知り、慎重な判断ができる金融リテラシーを身につけることが、自己破産を防ぐ最大の防御策なのです。
もし今、返済に困っているなら、一人で抱え込まず、今日にでも専門機関に相談してください。必ず解決の道はあります。


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