相模原市で発生した弁当詐欺事件の概要
2025年10月7日、相模原市中央区上溝に住む60歳の金高士(キム・コサ)容疑者(無職)が、4月28日から6月12日までの約1か月半の間、同区内の弁当販売店に対して34回にわたり弁当類564点を注文し、総額約26万円分をだまし取った疑いで逮捕された。
この事件が特に注目を集めているのは、その手口の巧妙さと被害額の大きさ、そして「なぜこれほど大量の弁当注文を1円も支払わず注文できたのか」という疑問です。
事件の詳細と、飲食業界における掛け売りのリスクについてシラベテミタ!。
「会社経営」を装った計画的犯行
犯行の手口と経緯
容疑者は弁当販売店に電話で「会社をやっているから毎日弁当を配達してもらいたい」と虚偽の申告をし、昼食時に1回あたり10点以上の弁当類を注文していました。一見すると法人客としての注文であり、店側も信用してしまったのは無理もありません。
会社経営を装うことで、容疑者は継続的な取引先としての信頼を得ようとしました。実際、多くの飲食店では法人客との取引において、請求書払いや月末締めでの支払いを受け付けているのが一般的です。このような商習慣の隙を突いた犯行だったと言えるでしょう。
「月末払い」という信頼関係の悪用
容疑者は当初、月末にまとめて代金を支払うと約束していました。この「月払い」「後払い」というシステムこそが、今回の事件で26万円もの被害が発生した最大の要因です。
通常、初回取引の際には現金払いや前払いを求めるのが一般的ですが、「毎日配達してほしい」という継続的な注文の約束は、店側にとって魅力的なビジネスチャンスに映ったはずです。安定した収入源を確保できると考え、信用取引に応じてしまったのでしょう。
容疑者の供述と犯行動機
容疑者は「最初は払うつもりだった」と供述し、容疑を否認しています。この供述が真実かどうかは捜査の進展を待つ必要がありますが、詐欺事件においてよく見られる典型的な弁明パターンでもあります。
「最初は払うつもりだった」という言い分は、計画的な詐欺ではなく、経済的困窮による結果的な未払いだったと主張する意図が読み取れます。しかし、34回にもわたって注文を続け、支払いを一切しなかった事実は、計画性を疑わせる十分な根拠となります。
なぜ26万円分も支払わずに注文できたのか
中小飲食店における掛け売りの実態
飲食業界、特に弁当販売店や仕出し業者にとって、法人客は重要な収入源です。個人客と比較して注文数が多く、継続的な取引が期待できるため、多くの店舗が後払いシステムを導入しています。
一般的な掛け売りの流れは以下のようになります:
初回取引: 企業情報の確認、場合によっては与信調査
継続取引: 毎日または定期的な配達
請求: 月末締めで請求書発行
支払い: 翌月の指定日までに振込または現金払い
この仕組み自体は商取引として何ら問題ありません。しかし、小規模事業者の場合、厳格な与信管理を行うリソースが不足していることが多く、そこに付け込まれるリスクがあるのです。
信用取引の落とし穴
今回の事件で明らかになったのは、中小規模の弁当販売店における与信管理の脆弱性です。大手企業であれば、新規取引先に対して以下のような確認プロセスを踏むのが一般的です
- 商業登記簿謄本の提出
- 会社の実在確認(オフィス訪問、ホームページ確認)
- 取引開始時の保証金や前金の設定
- 信用調査会社を通じた与信チェック
- 取引限度額の設定
しかし、個人経営や小規模事業者がこれらすべてを実施するのは現実的ではありません。人手不足、時間的制約、コスト面での問題から、どうしても「取引先を信頼する」というアナログな方法に頼らざるを得ないのです。
1か月半で26万円の被害が発生した理由
4月28日から6月12日までの約46日間で564個、26万円分の注文がありました。これを計算すると
- 1日あたり平均約12個の弁当
- 1個あたりの単価は約460円
- 1か月の取引額は約17万円
月17万円の取引は、小規模な弁当店にとって決して小さくない金額です。だからこそ店側は「優良顧客を失いたくない」という心理が働き、支払いが遅れても配達を続けてしまったのでしょう。
最初の月末(5月末)に支払いがなかった時点で配達を止めるべきでしたが、「少し待てば払ってくれるだろう」「せっかくの大口客を逃したくない」という判断が、被害を拡大させる結果となった。
同種事件の多発と背景
相模原市内での連続被害
相模原署によると、同様の手口による被害が近隣で確認されており、関連を調べています。これは単発の犯行ではなく、同一犯または模倣犯による連続的な犯行の可能性を示唆しています。
複数の店舗が被害に遭っているということは、弁当業界における信用取引の慣習が広く知られており、そこに付け込む手口が確立されていることを意味します。容疑者が他の店舗でも同様の手口を使っていたとすれば、被害総額はさらに膨らむ可能性があります。
全国で頻発する飲食詐欺
実は、飲食店を狙った同様の詐欺事件は全国各地で発生しています。弁当だけでなく、ケータリング、仕出し料理、パーティー用オードブルなど、後払いが慣習化している業態が特に狙われやすい傾向にあります。
経済的に困窮した人々が、生活費や食費を確保するために飲食店の信用取引を悪用するケースも少なくありません。また、組織的な犯行グループが、意図的に複数の店舗から詐取するケースも報告されています。
飲食店が取るべき詐欺対策
新規顧客への基本的な確認事項
- 実在確認の徹底:
- 会社名での注文の場合は、国税庁の法人番号公表サイトで実在を確認
- オフィスの住所や連絡先が実在するかチェック
- 可能であれば初回は直接訪問して配達
- 段階的な信用供与:
- 初回は必ず現金払い
- 2〜3回の取引後、実績を見て月払いを検討
- 月払いの場合も取引限度額を設定(例:5万円まで)
- 連絡先の複数確認:
- 固定電話、携帯電話、メールアドレスなど複数の連絡手段を取得
- 担当者名だけでなく、会社代表の連絡先も確認
取引中の注意点
支払いが遅れた場合の対応が重要です。「お客様を失いたくない」という心理は理解できますが、以下のルールを徹底すべきです。
- 支払期日を過ぎたら即座に配達停止
- 未払い額が一定金額(例:3万円)を超えたら新規注文を受けない
- 支払いが確認できるまで取引を再開しない
- 悪質な場合は速やかに警察に相談
消費者・一般市民が知っておくべきこと
詐欺は犯罪である
「お腹が空いていた」「お金がなかった」といった理由は、詐欺行為を正当化する理由にはなりません。支払う意思や能力がないのに注文する行為は明確な詐欺罪に該当します。
刑法第246条により、詐欺罪は10年以下の懲役に処せられる重大犯罪です。今回のように26万円という比較的高額な被害の場合、実刑判決の可能性も十分にあります。
小規模事業者への影響
26万円という金額は、個人経営や小規模な弁当店にとっては死活問題です。利益率が10〜20%程度と仮定すると、この損失を取り戻すためには130万円〜260万円分の売上が必要になります。
また、被害店舗の店主は心理的なダメージも受けています。報道によれば、被害店舗の店長は「一品一品丁寧に作っている。もう二度と繰り返さないでほしい」とコメントしており、食材と労力をかけて作った商品が対価を得られなかった悔しさが伝わってきます。
請求に対して「5万円貸して」の金高士容疑者
驚くことに代金を請求する弁当店に1円のお金も支払わず、「5万円貸して」と頼んでいる。1円も支払われていないのに5万円を貸してもらえると思う神経が分からない。
今回の事件は日本人の「信頼」を悪用した事件。
一つ一つの商品に込められた作り手の思いを踏みにじる詐欺行為は決して許されるものではありません。被害店舗の一日も早い回復と、同様の事件の再発防止を願うばかりです。


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